歌は全部要らない~彩の国シェイクスピア・シリーズ『ジョン王』

 埼玉会館にて彩の国シェイクスピア・シリーズ『ジョン王』を見てきた。2020年に上演の予定だったが、新型コロナでいったん中止となった作品である。これで彩の国シェイクスピア・シリーズは完結する。『ジョン王』を生の舞台で見るのは初めてである(映像は何種類か見たことある)。オールメール上演である。

 戦争を徹底してばかばかしいものとして描いているのは良いと思うし、小栗旬演じる私生児フィリップとかは良かったのだが、全体的にはあまり演出が良いと思わなかった。最初と最後にある枠は、ああいうのが好みだという人がいるのはわかるが、個人的にはそこまで現代につなげなくてもこれは十分、現代的な芝居なのじゃないかと思うし、とくに終わり方は一度拍手があった後でエピローグ的なシメがあるので、ちょっと弛緩するのではと思う。全体にいろいろな歌が使われているのだが、これは全て要らない…というか、長い台詞を扱いかねて歌を導入しているみたいな感じで、全然演出にきちんと馴染んでいないと思う(『ジョン王』は『夏の夜の夢』とか『恋の骨折り損』みたいに歌や踊りを導入しやすい芝居ではないと思う)。この長い台詞を扱いかねている感じは他のところにもあり、日本の翻訳劇でありがちな、正面を向いて絶叫する台詞回しが多い。とくにコンスタンス(玉置玲央)狂乱の場面はこの正面を向いて叫ぶ演出が顕著に多く、ありがちな「女性の狂気を見せ物にする」だけの場面になっていて良くない。

 ただ、彩の国シェイクスピア・シリーズ最後の作品の千秋楽だったので、会場のイベント感はすごかった。最後のカーテンコールではボロ泣きする観客もいて、とにかく大仕事が終わったところを目撃したという満足感はある。小栗旬が最後にカーテンコールで言っていた、「もう出ないと思いますけど…」的な挨拶はまるで私生児フィリップが言っているみたいでちょっと面白かった。