前半は楽しめたが、後半は個人的に趣味でなかった~『三月大歌舞伎第二部:仮名手本忠臣蔵十段目/身替座禅』

 『三月大歌舞伎第二部:仮名手本忠臣蔵十段目/身替座禅』を見てきた。

 『仮名手本忠臣蔵』を見るのは初めてなのだが、十段目「天川屋義平内の場」はあまり単独で上演されることがない場面だそうだ。商人である天川屋義平(中村芝翫)は赤穂の義士たちを助けるべく尽力しており、このために妻のおその(片岡孝太郎)を遠ざけ、押し入った捕り手たちから子どもの命をたてにとった脅迫まで受ける。あわやというところで大星由良之助(松本幸四郎)が出てきて、捕り手たちは実は赤穂の義士で義平の志を確かめるためだったということがわかる。大星のはからいでおそのとの復縁もでき、義平夫妻が感謝して終わるという内容である。

 あまり単独で上演されない場面にしてはけっこうメリハリもあって面白かった。ただ、さすがに子どもの命をとるフリをする大星一味はやりすぎだと思った。また、義平が愛妻で信用できるはずのおそのに事情を説明せず遠ざけるところは男性にありがちな1人でため込んで結局他人に迷惑をかけるという傾向で、ちょっとレイチェル・ギーザの『ボーイズ』を思い出した。まあ、時代が時代なのでそのへんは我慢して見るしかないし、展開じたいは退屈せずに見られる。

 一方で『身替座禅』は、いくら時代が時代だからと言ってそんなに楽しいと思えなかった。大名の右京(尾上松緑)が座禅をしているフリをして浮気相手に会いにいくが、それが奥方の玉の井中村鴈治郎)にバレてしまってえらいことに…というのをコメディタッチで描いた舞踏劇である。踊りは楽しいところもあるが、女性の悋気を面白可笑しく描いてネタにするというのはどうもミソジニーを感じてしまって、あまり笑えない。