限りある残りの人生をどう生きるか?~『長ぐつをはいたネコと9つの命』

 『長ぐつをはいたネコと9つの命』を見てきた。『シュレックフランチャイズの新作で、2011年の『長ぐつをはいたネコ』の続編である。

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 長ぐつをはいたネコことプス(アントニオ・バンデラス)は無鉄砲な暮らしぶりがたたってネコが持つ9つの命のうち8つを失ってしまった。ドクターストップをかけられ、自分の命を狙っているらしい怪しいオオカミ(ワグネル・モウラ)にもつけ回され、不安になったプスは捨て猫を保護している家に転がり込む。そこでネコのふりをしている名前のない犬である通称「ワンコ」(ハーヴィ・ギイェン)に出会うが、ひょんなことから願いがかなうという願い星を探しに行くことになる。プスはワンコとかつての恋人キティ(サルマ・ハエックピノー)とともに願い星を探しに出かけるが、さまざまなライバルが願い星を狙っていた。

 かわいいキャラクターが登場し、子どもも見られるアニメ映画にしてはえらく大人のテーマを扱った作品で、主題はもう若くはない中年の男性主人公が限りある残りの人生をどう生きるかということである。プスは若さと男らしさにしがみついて命を大事にしない生き方をしていたが、願い星を見つけるための冒険の過程で、心から信頼できる友達や愛する人ともっと人生を大事にして暮らすことが重要だと悟る。恋愛要素はなくてもいいような気はするが、何しろバンデラスとハエック・ピノーで、声だけでも情熱が伝わってくる相性の良さなので、そりゃあこのふたりは一緒になる運命でしょ…と思えてしまう。一見役に立たないが優しさや癒やし、ケアの高い技能を持っているワンコが、アウトローっぽい男らしさにこだわっているプスをはじめとするいろいろな登場キャラクターの見栄を解き放っていくあたりはとても心温まる展開である(このケアによる癒やしが効かない相手もいるのがドリームワークスらしくブラックだが)。おとぎ話っぽく楽しい物語になっているが、お話じたいはかなり深刻な中年の危機とその克服の物語で、おそらく『シュレック』シリーズをリアルタイムで見ていた子どもたちが親になり、自分の子どもを連れて見に来ることを想定しているんだろうな…と思う。

 ヴィジュアルスタイルはかなり同じドリームワークスの作品である『バッドガイズ』に似ており、ターゲットの絞り込み方も同じ方向性だ。集中線みたいな線の使い方とか、アクションシーンでの動きの速いところと遅いところのメリハリとか、いろいろ工夫が見られて見栄えの点でも面白い。声優陣もとても豪華で、いろいろな角度から楽しめる作品である。