非常にちゃんとした映画だが、個人的には…『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』(試写、ネタバレ注意)

 試写でオレシア・モルグレッツ=イサイェンコ監督によるウクライナポーランド映画キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』を見た。

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 舞台は第二次世界大戦期のウクライナ(当時はポーランド領だった地域)である。ユダヤ人が家主の家をポーランド人とウクライナ人の家族が借りることになり、最初はいろいろ民族的な違いでぎくしゃくしていたが、だんだんわだかまりが解けて親しくなっていく。ソ連ナチスドイツの侵略によりユダヤ系とポーランド系の一家は亡命することになり、ユダヤ系一家は両家の子どもたちを預かることになる。ウクライナ系の一家の母であるソフィア(ヤナ・コロリョーヴァ)はなんとか子どもたちを守ろうとするが…

 夫を亡くすなど壮絶な苦労をし、最後はドイツ人の子どもまで保護して戦うソフィアの勇気ある行動を描いた作品である。ソフィアは音楽教師で、タイトルの「キャロル・オブ・ザ・ベル」はウクライナの有名なクリスマスソングで、作中で使われている。監督はドキュメンタリー出身だそうだが、本作の脚本もある程度は戦争中の事実をベースにしているそうで、全体的に正攻法の歴史もので非常に真面目な作りだ。ウクライナ人、ポーランド人、ユダヤ人の連帯が出てくる一方、最後はソ連の悪行が描かれるあたり、昨今の政情を反映しているのかと思ったが、既に2021年には撮り終えていたそうで、ロシアのウクライナ侵略を意識して撮ったとかではないそうだ。

 こういう映画には意義があると思うし、志はわかる。ただ、まったく個人的な好みとして、私はこういう迫害のターゲットとなった人を助けた人の勇気を描くよりも、実際に直接迫害を受けたユダヤ人とかロマとかが主体的に抵抗する作品のほうが好きである(あるいは「助力者」的要素があまりないウクライナ人視点の映画でもいいと思うが)。ドキュメンタリー映画はともかく、劇映画でホロコーストを扱ったものというのは思いがけないくらいこういう非ユダヤ人の助力者やレジスタンスなどの活躍や抵抗が主筋になることが多く、ユダヤ人は気の毒な被害者みたいになってしまって、あまり抵抗の主体になれないことも多い。現在、反ユダヤ感情の高まりに不安を覚えてロシアを出て行くユダヤ人も多いらしいのだが、当事者としてのウクライナユダヤ人が主役の映画を見てみたいなと思った。