打ち明けられない男たち~『クリード 過去の逆襲』(ネタバレあり)

 『クリード 過去の逆襲』を見てきた。『ロッキー』シリーズのスピンオフである『クリード』の3作目で、『ブラック・パンサー』シリーズで多忙だったと思われるライアン・クーグラーが監督を降りて(プロデューサーには残っている)、主演のマイケル・B・ジョーダンが初めて監督をつとめることになった作品である。

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 アドニスクリードマイケル・B・ジョーダン)は引退して後進の育成と子育てに専念していたが、そこへ子ども時代の友人でボクシング仲間だったデイム(ジョナサン・メジャーズ)が訪ねてくる。デイムに対して何か負い目があるらしいアドニスはいろいろとデイムを助けるが、手痛いしっぺ返しを受ける。過去と向き合い、暴走するデイムを止めるため、アドニスはボクシング復帰を決意する。

 全体として、つらいことを打ち明けたりシェアしたりするのが苦手で、感情を内にため込みがちな「男は黙って」文化を内面化してしまったアドニスが、こういう悪しき男子文化とでも言うべきものを克服して大人になる物語である。アドニスは師匠のロッキーに比べるとだいぶ現代的な男性に見えるが、この作品では意外なくらいつらいことを他人に相談するのが苦手だ。フラッシュバックの映像を通して示唆されていることからすると、おそらく子どもの頃に苦労したせいで、弱みを見せると生き残れないという強迫観念みたいなものが身についており、それがつらいことを話したくないという気持ちにつながっているのだろうと思う。本作ではロッキーが出てこないのでいろいろ相談できる男友達がいないという問題点もあるのだが、子育てや仕事のことは何でも話せるはずの妻のビアンカテッサ・トンプソン)にすら過去のことを話せないし、だいぶ事情を知っている養母のメアリー・アン(フィリシア・ラシャド)ともちゃんと話せなくて当たってしまう。過去の記憶がつらすぎるからというのはあるのだが、それでもこのことをきちんと話して整理できないことがアドニスの人生の暗転につながってしまう。本作のクライマックスとなるファイトは一応最後のボクシングマッチだが(ここもいきなりボクシング会場の観客が消えたりけっこう凝った撮り方になっている)、アドニスの心が一番乗り越えるべきファイトは、この人になかなかつらいことを相談できないという感情の壁との戦いである(その点では『幸せへのまわり道』に似ていると思う)。全体的にこの作品ではアドニスもデイムも腹を割った打ち明け話みたいなことが不得意で、それの克服が一番、人生にとって重要だという展開になっている。

 なお、アドニスの小さな娘アマーラ(ミラ・デイヴィス=ケント)は耳が聞こえないので両親とはアメリカ手話で会話しているのだが、アマーラ役のデイヴィス=ケントはアメリカ手話のネイティブユーザである。子役なのだがとても芸達者で、お父さんのアドニスに似た、自己主張のはっきりしたスポーツ好きな女の子をチャーミングに演じている。続編があるとしたらこの子が女子ボクシング界に殴り込みをかける話だろうと思う(そういう話が見たい)。