アッシュランド(4)オレゴン・シェイクスピア・フェスティバル『ザ・ヨーメン・オブ・ザ・ガード』

 オレゴンシェイクスピア・フェスティバル、二日目はまず舞台美術についてアーティストのレクチャーを聞いた。「木を木っぽく見せるだけで結構たいへん」とか、面白い話がたくさん聞けた。子どもたちをアシスタントにして製作の実演もあった。

 その後マチネでギルバート&サリヴァンの『ザ・ヨーメン・オブ・ザ・ガード』(The Yeoman of the Guard)を見た。演出はショーン・グレイニーというシカゴの演出家によるものなのだが、これが大変野心的なもので、セッティングを19世紀頃のアメリカにして、音楽は全てカントリー&ウェスタンの楽器と唱法でアレンジするというもの。舞台の中心にはお客が座れるスペースがあり、演者はこのお客のスペースの中を歩き回りながら芝居をする(お客は演者の指示で場所をあげたりいろいろしないといけない)。セットはステンシルのタイルに木馬などが置かれたまるで遊園地みたいな華やかなものだ。開演前には演者がバンジョーなどでカントリーのスタンダードを歌うサービスがあり、開演前から"Ring of Fire"を客席大合唱。この歌、アメリカ人は皆歌えるのか?

 ストーリーは基本的にそのままだが、人の名前や肩書き、地名がアメリカ風に変更されており、それに伴って歌詞や台詞も変えられたり(原作はロンドン塔の話なのだが変更されている)、アドリブが入ったりする。また、ずいぶんカットされているようだ。親戚にあたるカラザーズ刑務所長の悪巧みにより、魔術の罪で戦争の英雄フェアファックスが死刑を宣告される。フェアファックスはカラザーズに遺産を渡さないため、保安官代理のディックに頼んで誰でもいいから結婚してくれる女性を探してきてくれと頼む。ディックは旅芸人のポイント・シスターズの片割れであるエルシーを見つけ、すぐ寡婦になって財産が入るからとくに不利益はないと説得し、エルシーとフェアファックスに目隠しをつけた状態で結婚させる…が、ポイント・シスターズの片割れであるジャン(女性で、血のつながりはない)はエルシーに惚れているので心穏やかでない。一方、フェアファックスに命を救われたことがあるメリル少佐(中佐?Majorである)と、フェアファックスに片思いしているメリルの娘フィービーはフェアファックス救出を画策。フェアファックスにトレードマークのヒゲをそり落とさせ、しばらくスパイとして留守にしており、ヨーメン・オブ・ザ・ガードに入って帰郷する予定が急死したらしいフィービーの兄レナードのフリをさせることにする。フェアファックスはレナードのフリをして命が助かるが、エルシーは全く知らない男と結婚した状態になってしまって大困惑。レナードのふりをしたフェアファックスはエルシーを好ましく思って彼女に近づき、エルシーもフェアファックス/レナードに惹かれるが、自分は結婚した身であるので結ばれるのは無理だと諦めてしまう。最後に真実が明らかになり、フィービーはフェアファックスと結婚できないので、嫌っていた看守のウィルフリッドと渋々婚約し、メリルも自分にずっと惚れていたカラザーズをなだめるため渋々婚約する。エルシーとフェアファックスは幸せに結ばれるが、ジャンはエルシーに振られ、歌を歌いながら去って行く。

 
 この演目はギルバート&サリヴァンにしては最もシリアスな内容らしいのだが、たしかに最後、ジャン(原作ではジャック)が恋に破れて"I Have a Song to Sing, O!"を歌いながら出ていくところはとても可哀想で、観客席からも"Oh..."という哀切の声が漏れていた。エルシーに惚れている相棒を女性に変えたせいでちょっとクィアな雰囲気が出ており、花嫁捜しをしているディックが「あんたたちご一緒なの?」(つまり「つきあってんの?」と聞きたい)と聞いた時にエルシーが「もちろん!ずっと一緒に仕事してんの」みたいな答えしか返さないからディックが2人の関係をなかなか推し量れなくて困っちゃう場面は現代的で可笑しいし、フェアファックスを愛しているエルシーがジャンに求婚されて「ジャンのことは大好きだし一緒にいて楽しいけど…」とちょっと揺らぐところとか、わりと異性愛も同性愛もフラットに描かれていると思った。しかし最後にレズビアンのジャンは異性愛に破れて去って行ってしまうので、余計失恋の苦しみが哀切に感じられてしまう。全体的にすごく笑えるプロダクションなのだが、これはちょっとステレオタイプに悲劇的になりすぎでは…と思った。

 とはいえ、ギルバート&サリヴァンをカントリー&ウェスタンにするというのはとても野心的だと思うし、けっこううまくいってると思う。むちゃくちゃな設定なんかは案外、西部劇にしやすいのかもしれない。