ロバート・アイク演出Player Kingsを見てきた。シェイクスピアの『ヘンリー四世』二部作(+ほんのちょっとだけ『ヘンリー五世』の冒頭)を編集して3時間くらいにまとめたものである。けっこうカットしてスピーディな展開になっているが、それでもわりと大作感はある。なお、プレビューだったので若干こなれていないところがあった可能性がある。
だいたい現代風の衣装を用いた演出なのだが、美術や衣装にはややレトロなところもある。最初のボアズヘッド亭はどこのゲイバーかと思うような大騒ぎである(その後はあまりゲイバーっぽくなくなっていくが…)。初っ端から半裸でぶっ倒れているハル(トヒーブ・ジモー)と、椅子で眠っているフォルスタッフ(イアン・マッケラン)の面白おかしいやりとりで笑わせてくれる。もともとこの作品は史劇とはいえコミカルな作品だが、全体的に笑えるところはかなり多く、しかもちょっとひねったダークユーモアが特徴的だ。いろいろなウソとこずるいごまかしの結果、フォルスタッフが戦傷を負った英雄ということになり、お酒の広告に出るあたりの場面はとても可笑しい。
ハルは若くて非常に未熟な感じがするがとても元気な若者である一方、フォルスタッフはかつては意気揚々としていたのだろうがだんだん忍び寄る老いを気に病んでいる感じである。このフォルスタッフはたしかにユーモアのある人物だが、あまり陽気ではない…というか、どこか悲しそうだし疲れたフォルスタッフだ。ハルも元気いっぱいだが根っから陽性な若者というわけでもなく、2人の間には共通点があって、擬似父子的だ。ハルは自分が失った若さを与えてくれる存在だからフォルスタッフはハルを必要としているのでは…と思えるところがある。そう考えると『ヘンリー四世』二部作には入っていないフォルスタッフの死までがこの芝居に入っているのは納得できる。
ただ、私はロバート・アイクの演出についてはあんまり好きではないと思うところがたまにあり、このプロダクションにも二箇所ほどあった。ひとつめは序盤の強盗のところで、この演出では襲撃された人がけっこう派手に血を流して死ぬ。この場面は非常に暴力的で、後で出てくるフォルスタッフの法螺とあんまり整合性がないと思うし(誰も殺していないのに殺したとか言うからあの場面は面白いのではと思う)、後で(殺人容疑ではなく)強盗容疑で捜査官が来るという展開ともあっていない気がする。ロバート・アイクはたまにこういう要らないショック演出みたいなのをすることがあり、そこがどうも好きになれない。もうひとつは、幕を半分くらい下げて展開する場面があるところで、これは私の座っている席からはほぼ舞台が見えなくなってつまらないだけだったし、また舞台が狭くなるだけで意味あるのかな…と思った。