映画

史実を無視しており、かなりひどい~『博士と狂人』

『博士と狂人』を見てきた。いつも私がお世話になっているオクスフォード英語辞典の作成過程で、殺人犯で精神病院に入院していたマイナー(ショーン・ペン)がボランティアとして例文集めに貢献したという史実をもとにした作品である。 hakase-kyojin.jp サ…

楽しいところはたくさんあるが、感覚が古い~『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』

『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』を見てきた。エドモン・ロスタンが『シラノ・ド・ベルジュラック』を作る過程を描いたバックステージものである。ただ、かなり脚色があると思われる。 cyranoniaitai.com 舞台は19世紀末のパリ、売れない詩人・劇…

ラピュタの村meetsゲイカップルの結婚式~『天空の結婚式』(ネタバレ注意)

イタリア映画『天空の結婚式』を試写で見てきた。変わったタイトルだが、これは『天空の城ラピュタ』のモデルじゃないかと噂されているイタリアの山の上に浮かぶ風光明媚な村、チヴィタ・ディ・バニョレージョを舞台に、ゲイカップルが結婚式をあげるという…

ストックホルム症候群を描くオフビートなコメディ~『ストックホルム・ケース』

『ストックホルム・ケース』を見てきた。イーサン・ホークが『ブルーに生まれついて』で一緒に仕事をしたロバート・バドロー監督と再度組んだ作品である。ストックホルム症候群という言葉が誕生するきっかけとなったノルマルム広場のクレジット銀行強盗事件…

モノクロの考え抜かれた画面~『異端の鳥』(ネタバレあり)

『異端の鳥』を見てきた。イェジー・コシンスキの小説の映画化である。 www.youtube.com 第二次世界大戦中、どこかの東欧の国を舞台に、おそらくユダヤ系なのではないかと推測される少年(ペトル・コトラール)がすさまじい暴力や虐待を生きのびる様子を描い…

期限つきのユートピア~『燃ゆる女の肖像』(試写、ネタバレ注意)

試写でセリーヌ・シアマ監督『燃ゆる女の肖像』を見た。 www.youtube.com 舞台は18世紀のフランスで、語り手である女性画家マリアンヌ(ノエミ・メルラン)の回想という枠に入っている。マリアンヌはとある孤島に呼ばれ、屋敷の令嬢エロイーズ(アデル・エネ…

これはキム・ジヨンが書いた物語じゃない~『82年生まれ、キム・ジヨン』(ネタバレあり)

『82年生まれ、キム・ジヨン』を見た。チョ・ナムジュの原作小説を読んでとても面白いと思い、楽しみにしていた映画である。 82年生まれ、キム・ジヨン 作者:チョ・ナムジュ 発売日: 2019/02/13 メディア: Kindle版 タイトルロールのキム・ジヨン(チョン・…

見る前から悪い予感がしたが、やはり全く趣味ではなかった~『フェアウェル』(ネタバレあり)

ルル・ワン監督の『フェアウェル』を見てきた。 www.youtube.com 中国系の二世でニューヨークに住んでいるビリー(オークワフィナ)は長春に住んでいるおばあちゃん(チャオ・シュウチェン)が大好きだが、ある時おばあちゃんが治る見込みのない肺がんだとい…

ギャラガー家のポール、音楽業界で一番なりたくない立場だ~『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』

『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』を見てきた。オアシスを辞めてからのリアム・ギャラガーに関するドキュメンタリーである。 www.youtube.com オアシス後のリアムがどうやってどん底から抜け出してキャリアを復活させたかという話である。オアシス…

ジョーンの業績をうまくまとめたドキュメンタリー~『ジョーン・ジェット/バッド・レピュテーション』

『ジョーン・ジェット/バッド・レピュテーション』を見てきた。 www.youtube.com ジョーン・ジェットの業績をたいへんうまくまとめたドキュメンタリーである。ジョーンはけっこうのびのびした環境で育ったが、音楽業界に入ってから性差別の壁にブチあたり、…

擬似家族としてのモータウンとその2人の父~『メイキング・オブ・モータウン』

『メイキング・オブ・モータウン』を見てきた。60年代に一世を風靡したデトロイトのレーベル、モータウンについてのドキュメンタリー映画である。 www.youtube.com 全体としては、まだご存命の関係者を中心にモータウンの歴史を創設から70年代頃まで辿るとい…

空虚な中心としてのジョン・デイヴィッド・ワシントンの身体~人種映画としての『TENET テネット』(ネタバレあり)

クリストファー・ノーラン監督の新作『TENET テネット』を見てきた。既にいろいろなレビューで出ているとおりやたら複雑で、しかもネタバレをしないほうがよさそうな映画なのであまり詳しいことは書かないが(ただしこのレビューは多少ネタバレがある)、と…

台本はよく出来ているが、個人的に非常にいけ好かない映画だと思った~『アルプススタンドのはしの方』

『アルプススタンドのはしの方』を見てきた。高校演劇で賞をとった戯曲の映画化である。元の舞台は未見である。 www.youtube.com もともとが高校演劇の戯曲ということで、短い作品だ。演劇部のあすは(小野莉奈)とひかる(西本まりん)、元野球部の藤野(平…

こんなに登場人物が食ってばかりの映画を久しぶりに見た~『窮鼠はチーズの夢を見る』(ネタバレあり)

行定勲監督の『窮鼠はチーズの夢を見る』を見てきた。原作は未読である。 www.youtube.com 主人公の恭一(大倉忠義)は結婚しているが浮気癖のおさまらない女好きで、大変なモテ男である。そこにかつての大学の後輩で今は探偵社につとめている今ヶ瀬(成田凌…

カポーティの「娘」~『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』(試写、ネタバレ注意)

『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』を試写で見てきた。作家のカポーティに関するドキュメンタリー映画である。 www.youtube.com ジョージ・プリンプトンの評伝が原作に近い位置づけで、プリンプトンの取材テープの公開…ということになっているのだが、…

早すぎる「中年の危機」…『マティアス&マキシム』(試写、ネタバレ注意)

グザヴィエ・ドランの新作『マティアス&マキシム』をオンライン試写で見た。 www.youtube.com 数日中にオーストラリアに旅立つことになっているマキシム(グザヴィエ・ドラン)は長年の友人であるマティアス(ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス)を含めた…

映画における音の重要性をわかりやすく説明したドキュメンタリー~『ようこそ映画音響の世界へ』

『ようこそ映画音響の世界へ』を見た。映画における音響の重要性に関するドキュメンタリー映画である。 www.youtube.com トーキーになったばかりの時期から最近まで、映画の音響技術の発達を大変わかりやすく描いたもので、音響がどんなに映画に大切かという…

感情をため込んでしまう男たちへの救い~『幸せへのまわり道』

マリエル・ヘラー監督『幸せのまわり道』を見てきた。ひどくセンスのない日本語タイトルだが、原題はA Beautiful Day in the Neighborhoodで、アメリカの有名な教育番組司会者フレッド・ロジャースの事績に取材した作品である。 www.youtube.com 主人公はフ…

カラオケの場面がとにかくよくできている~『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』

オリヴィア・ワイルド監督『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』を見てきた。 www.youtube.com 優等生のモリー(ビーニー・フェルドスタイン)とエイミー(ケイトリン・ディーヴァー)は親友同士で、高校卒業を控えていた。ろくに遊ばず、真面目…

タイトルから想像するよりもしっかりスリラー映画~『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』を見てきた。アグニェシュカ・ホランド監督の新作である。 www.youtube.com 主人公はウェールズ人のジャーナリストでロイド・ジョージの顧問だったガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)である。ガレスはスターリ…

タイトルが下ネタでネタバレ~『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』(ネタバレあり)

『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』を見た。『スイス・アーミー・マン』のダニエル・シャイナート監督作である。 www.youtube.com 舞台はアメリカの田舎町である。ジーク(マイケル・アボットJr.)、アール(アンドレ・ハイランド)、ディック(監督本…

内容は良かったが、撮り方が…『ハニーボーイ』

『ハニーボーイ』を見てきた。シャイア・ラブーフ脚本による自伝的な作品である。ラブーフはドラッグのリハビリのプロセスの一環としてこの台本を書いたらしい。 www.youtube.com 主人公オーティス(大人になってからはルーカス・ヘッジズ、子供時代はノア・…

『アナザー・カントリー』のダメバージョン~『ジョーンの秘密』

トレヴァー・ナン監督『ジョーンの秘密』を見た。実在したソ連の協力者メリタ・ノーウッドの話にヒントを得た作品である。 www.youtube.com 物語は現代のイギリスでおばあさんになったジョーン(ジュディ・デンチ)が逮捕されるところから始まり、ソ連のスパ…

図書館の公共性~『パブリック 図書館の奇跡』(ネタバレあり)

『パブリック 図書館の奇跡 』を見てきた。エミリオ・エステベスが監督・脚本・製作・主演の作品である。 www.youtube.com 舞台はシンシナティの公共図書館である。司書のグッドソン(エミリオ・エステベス)は以前、体臭のせいでホームレスの利用者を図書館…

男子文化と打ち明け話~『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』

フランソワ・オゾンの新作『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』を見た。この日本語タイトルはけっこうよろしくない…というか、フランス語の原題はGrâce à Dieuで、文字通りには神の恩寵のことで、慣用的な意味としては途中で説明されているように「神のおか…

競馬一家の明るい家族ドラマ~『ライド・ライク・ア・ガール』(少しネタバレあり)

『ライド・ライク・ア・ガール』を見た。メルボルンカップで初めて女性騎手として優勝したミシェル・ペインの伝記ものである。 www.youtube.com ミシェル(テリーサ・パーマー)は競馬一家であるペイン家の娘で、10人きょうだいの末っ子である。ミシェルも騎…

一種の妊娠ホラー~『透明人間』(ネタバレあり)

『透明人間』を見てきた。古典ホラーのリブートである。 www.youtube.com ヒロインのセシリア(エリザベス・モス)は科学者で抑圧的な恋人であるエイドリアン・グリフィン(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)のもとを逃げ出して友人である警官のジェイムズ…

確定しないセクシュアリティ~『はちどり』(ネタバレあり)

『はちどり』を見てきた。 www.youtube.com 舞台は1994年のソウルで、ヒロインである14歳のキム・ウニ(パク・ジフ)の暮らしを非常に丁寧に描いたものである。ウニの家庭はいろいろ問題を抱えており、一方で学校にもなかなか周りにあわせられない。きちんと…

終盤の脚本が整理されていないと思う~『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』(ネタバレあり)

ツヴァ・ノヴォトニー監督『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』を見てきた。 www.youtube.com ブリット=マリー(ペルニラ・アウグスト)は63歳で、長きにわたり清潔好きで規律正しい完璧な主婦として夫のケント(ペーター・ハーバー)と暮らしていた。しかし…

若い女性がヒロインだと中年女性の描写がおそろかになってしまう問題~『ワイルド・ローズ』(ネタバレあり)

トム・ハーパー監督『ワイルド・ローズ』を見てきた。 www.youtube.com ヒロインはグラスゴーのカントリー歌手、ローズ=リン(ジェシー・バックリー)である。ローズ=リンは2人子供がいるシングルマザーで、麻薬関連の犯罪で服役しており、刑務所出たてで子…