2010年代映画ベストテン

 毎年恒例のid:washburn1975さんのところでやっている企画に参加します。今年は映画テン年代ベストテンです。

 順位がつけられなかったので、順不同でいきます。自分のブログでレビューしてあるやつはリンクします。

 ・『お嬢さん』(2016)

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台本や演技は面白いのだが、照明が…『BLACK SHEEP』

 ウッディシアター中目黒で、ご招待を受けて福山桜子台本・演出の『BLACK SHEEP』を見てきた。井出卓也のひとり芝居である。

 心理学者をやめて歌舞伎町で一人暮らしをしている千が、警察から捜査協力依頼を受けるところからはじまる。千は人の嘘を見抜く研究が専門で、ちょっとばかりシャーロック・ホームズとか『ライ・トゥ・ミー』のカルみたいなところのある人物である。ホストクラブで発生した不自然な死について捜査協力を頼まれ、しぶしぶ手伝うことになる千だったが、そこでサルトルというホストと親しくなり…

 

 ひとりでとっかえひっかえいろいろな役をやるのだが、台詞は片方の人物がしゃべっている内容しかわからず、つまりやりとりの全体については観客が想像するしかないというものになっている。時系列なども必ずしも直線的ではないので最初は多少混乱するところもあるかもしれないが、そんなに難解な芝居ではない。井出卓也は大変頑張っており、ひとりで90分、すごくしっかり舞台をもたせていた。千に同じようなことが二度も起こるという落とし方はちょっと強引な気もするし、慶應義塾大学における講師の地位はああいう描き方でリアルなのか…?という疑問はあるのだが、そこを除くと台本じたいはそんなに悪くなく、面白いところもたくさんある。最初は柱しかなかったセットがどんどんテープでぐるぐる巻きにされていくというちょっと特異なヴィジュアルもなかなか雰囲気がある。

 

 ただ、照明が圧倒的に劇場にあっていないと思った。かなり光の強い照明をやたらと動かす演出があるのだが、こんな小さい劇場でやると観客のほうは相当にまぶしく、ひとり芝居なのに役者の表情がよく見えなくてけっこうなフラストレーションがたまる。これだけはちょっとどうかと思った。

青鞜社を描いた時代もの、ただし完全に「現代」のお話~『私たちは何も知らない』

 永井愛の新作『私たちは何も知らない』を見てきた。

nitosha.net

 平塚らいてう(朝倉あき)をはじめとする青鞜社の女性たちを主人公にした作品である。らいてうは非常にカリスマがあり、尾竹紅吉(夏子)や伊藤野枝(藤野涼子)をはじめとする人々をまるでスターのように惹きつけるのだが、青鞜社を続けるうちに人間関係のもつれや編集作業の大変さでいろいろトラブルも起き…という物語である。

 

 台本は大変よくできており、らいてうと紅吉の同性愛などもわりとはっきり書いてあるし、当時のフェミニストたちの間の考えの違いなどがあまり堅苦しくなくわかりやすく描かれている。雑誌の編集作業の大変さをしっかり見せているところもよく、非常にちゃんとした文芸舞台裏ものでもある。最初はひどく叩かれていた青鞜社が目指したことが少しずつ世間に浸透していく一方、『青鞜』の売り上げはあまり芳しくなくなり、編集も大変になって…というようなプロセスを丁寧に見せているあたりもいい。

 

 時代劇なのだが登場人物は皆現代風の衣装を着て出てきており、完全に現代に通じる女性運動の話として演出されている。青鞜社の女性たちがやっていた戦いは、今ここで女性たちが行っているフェミニズムの戦いと完全につながっており、我々は先達のしたことを引き継いでいるのだ、という含みが台本からも衣装からも読み取れるようになっている。時代ものを現代の衣装でやるというのはシェイクスピア劇などの古典ではよくある手法だが、新作では珍しいやり方で、この作品では非常に効果をあげていると思った。斜めの空間を使ったセットなどもしゃれていて、絵の額縁みたいなものを使っていろいろな女性たちの声を紹介するところなども気が利いている。ただ、台詞回しについてはかなり改善の余地があると思った。全体的に台詞が噛み気味で、噛まないように注意しているのかちょっともたついているところもあった。雑誌の編集の場面や、次々と刊行される雑誌の話をする場面などは、かなり台詞をスピードアップさせ、ちょっと尺を短くしてもいいのではという気がした。

今月の連載はハリー・ポッターシリーズについてです

 今月の連載は「ハリー・ポッターとイギリス文学における同性愛~『ハリー・ポッターと死の秘宝』精読」ということで、J・K・ローリングが後で発言して物議をかもした「ダンブルドア先生はゲイ」設定は原典テクストからも読み取れますっていう話をしています。厳密に言うと、登場人物が男性に恋をしただけでは「ゲイ」かどうかはわからないとこもあるのですが、ローリングの設定はちゃんと作中で生きてるって話なので。

wezz-y.com

 

カクシンハン『ロミオとジュリエット』+ポストトーク

 東池袋アトリエファンファーレでカクシンハン『ロミオとジュリエット』を見て、ポストトークに参加してきた。2ヶ月前にギャラリー LE DECO 3でやった時と台本や役者は同じなのだが、地下の黒い部屋にはしごなどを設置したセットでかなり見た目の雰囲気が違い(新聞紙は同じ)、全体的に能みたいな緊迫感のある舞台になっていた。ギャラリーLE DECOでやった時は白い箱でもうちょっとシャープな印象の舞台だったので、小屋を変えて少し演出を調整するだけでずいぶん印象が変わるなと思った。 

 ポストトークでは非常に緊張してしまった。舞台で照明を浴びるのに慣れていないので、ついつい挙動不審になってしまう。

saebou.hatenablog.com

海王星から太陽系を危険にさらしてる親父さんが出てくる映画がバカSFじゃないなんて~『アド・アストラ』

 『アド・アストラ』をブルーレイ試写で見てきた。

www.foxmovies-jp.com

 主人公であるロイ(ブラッド・ピット)はあまり人に心を開かないタイプだが、非常に優秀な宇宙飛行士である。ところが彼の父で、ミッション中に死亡したと思われていたクリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)が海王星のあたりで生きており、そのせいで太陽系が危険にさらされているらしいことがわかる。ロイは父にメッセージを届けるべく、月を経由して火星に向かうが…

 

 あらすじだけ書くととんでもないアホSFみたいである。普通、海王星くんだりまで行ってひとりで太陽系を危険にさらすような行動をとってる親父さんが出てくる映画はあまり真面目な内容にはならないはずだ。ところがこの映画は大変に真面目な内容で、笑うところとかはほとんどない。撮り方もかなりアーティスティックでこだわりがあり、内容も男らしさの問い直しとか、親子の絆の問題とか、深刻である。『闇の奥』+『ファースト・マン』+『2001年宇宙の旅』みたいな感じの映画だ。

 

 この映画のポイントとして、クリフォードがとにかくダメな父親であるにもかかわらず、ロイは父を取り戻そうとしているということがある。ロイは私好みの一切社交性のない主人公なのだが、父親みたいになってしまうことへの疑問が強くあるようで、ボイスオーバーのモノローグでいろいろ悩んでいる。途中、無理矢理宇宙船に乗り込もうとして他の船員を事故で全員死なせてしまうあたり、身勝手で他人を犠牲にして生きてきた親父さんにどんどん近付いていっている気配があるのだが、それでもなんとかしてそうなりたくないという気持ちがある。そういうわけでロイは親父さんに会いに行くのだが、親父さんはロイに会ってもあまり喜ばず、むしろ拒むようなそぶりをする。それでもロイは親父さんを取り戻そうとするのである。『アンブレラ・アカデミー』とかもそうなのだが、めちゃくちゃな家族でもきっぱり決意して捨てるということができないという展開になる映像作品、最近けっこうよくあるような気がしている。帰ってきたロイはあまりうまくいっていなかったらしいガールフレンドのイヴ(リヴ・タイラー)との関係にきちんとコミットしようとするようになるのだが、人間嫌いでも結局、人を捨てられないのがアメリカ映画なのだ。

 

 『ファイト・クラブ』から20年たってブラピがこういう映画に出たというのは非常に興味深いと思う。『ファイト・クラブ』は親父さんが家庭と物質主義に飼い馴らされているからそうなりたくない、と思っている男たちの暴走の映画だった。『アド・アストラ』は、家庭に飼い馴らされなかった親父さんが暴走して息子たちを苦しめているという作品である。ブラピいわくこの作品は男らしさの問い直しがテーマらしいのだが、ブラピの映画を追うだけでけっこう「男性性」について考えることができるかもと思った。