新刊『学校では教えてくれないシェイクスピア』 をよろしくお願い申し上げます。

可もなく不可もないホラーというような…『Malum 悪しき神』(試写)

 『Malum 悪しき神』を試写で見た。『ラスト・シフト/最期の夜勤』のセリフリメイクだそうだが、原作は未見である。

 警察官であるジェシカ(ジェシカ・スラ)が父の変死の事情を探りたいと考え、父親と同じ警察署で夜勤をするのだが、だんだんカルト教団の陰謀が…みたいな話である。深夜勤務の話なので、序盤は仮眠中の悪夢みたいな感じもする。たまにちょっとびっくりするような展開があるのだが、全体的にはまあ可もなく不可もないホラーというような感じだった。

朝ドラムーブが…『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』(試写)

 田口トモロヲ監督、宮藤官九郎脚本『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』を試写で見た。

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 1970年代末の東京のパンクシーンに関する映画で、かなり史実ベースだそうである。中心になる登場人物は写真家で語り手的な立場のユーイチ(峯田和伸)、TOKAGEのリーダーであるモモ(若葉竜也)、ロボトメイアのメンバーであるサチ(吉岡里帆)である。ミニコミ誌を作ったり、自分でレコードを出したり、DIY精神で山あり谷ありの活動をする。

 この時代の日本のパンクシーンについて全く知識がないため、どの程度史実に忠実かなどは判断できないのだが、けっこうテンポが良くてあまり事情を知らなくても楽しく見られる音楽青春映画だった。ちょっと『グッド・ヴァイブレーションズ』なんかに似ている(あんなに政治的な内容ではないが)。音楽も当時のバンドの曲を使っていてカッコいい。

 ただ、どう見てもどのバンドの話かわかるようにしているのに実際の人名を使っていないのはなんか朝ドラみたいなやり方で全く感心しなかった。この種の映画だと、イギリスやアイルランドで作られるものは『グッド・ヴァイブレーションズ』とか『24アワー・パーティ・ピープル』とか、主要人物はたいてい実名なので、日本の映画でも楽曲の許諾がとれるレベルのものはそうすべきだと思う。あと、モモがドラッグにはまり始める経緯についての描写がないのはだいぶ唐突な印象を受けた。レイティングが上がるとかでやりづらいのかもしれないが、この描写がないとモモが抱えているプレッシャーとか不安もよくわからないし、いきなり具合悪くなって知らないうちに依存症に…みたいな感じでちょっとびっくりした。

『プレゼント・ラフター』プログラムに寄稿しています

 PARCO劇場で上演中の『プレゼント・ラフター』プログラムに「現在の演劇、今ここの笑い声」という解説を寄稿しています。だいぶ気合いを入れて書いた原稿ですので、劇場にお越しの際はどうぞ見てみてください。とても楽しい芝居です。

 

 

反ワクチンが題材のダークな現代劇~『#拡散』(試写)

 『#拡散』を試写で見た。

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 介護士の信治(成田凌)は、ネットに夢中の妻である明希(山谷花純)とあまりしっくりいっていなかった。ところが明希はワクチン接種の翌日に急死してしまう。ワクチンが妻の死を引き起こしたと考え、病院に対する抗議活動を始める信治だが、報道で取り上げられたのをきっかけに事態がどんどん大きくなる。

 日常に不満を抱えていた男が妻の死をきっかけにまずいことになり、倫理観や思慮に欠けた報道のせいで状況が悪化、ネットのヤバい世界に入り込んでどんどんまずい事態に…という作品だが、最後にもうひとひねりあって、現代の世相が題材のスリラーとしてはけっこう頑張っているほうだと思う。ちょっとわざとらしいかな…と思う展開もあるのだが、わりと演技がちゃんとしていてそのへんカバーしている。あやしげなインフルエンサーみたいな人たちが信治に群がってくる展開はたぶんベースになっている人たちがいるのだろうと思うのだが、けっこう現実的な感じである。

 

まさかの『国宝』展開~『ブーニン 天才ピアニストの沈黙と再生』(試写)

 『ブーニン 天才ピアニストの沈黙と再生』を試写で見た。12月のリサイタルの曲も入っているというできたてほやほやの作品である。

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 日本で大人気で日本に家もあるスタニスラフ・ブーニンに関するドキュメンタリーである。若い頃にショパンコンクールで一世を風靡するが、芸術家にとって自由のないロシアにいづらくなって亡命し、その後は病気で手が麻痺した上、骨折と糖尿病のせいで足切断の瀬戸際まで追い込まれる。足を切るとペダルが踏めなくなるので足は温存したい…ということで、結局切断は免れるのだが、足の長さが短くなってしまう。最初にブーニンがでかいヒールのついた靴を履いて出てくるのだが、これは病気で大手術をして片足が短くなったからである…ということがわかるようになっている。

 そういうわけでものすごい苦労をして、病気を克服してピアノが弾けるようになってコンサートを再開…というところは非常に感心するのだが、一方で若い頃のショパンコンクールの演奏に比べると、この作品に収録されている復活後のコンサートの演奏はだいぶ見劣り(聞き劣りか)するとは思う。大病の影響による体力の衰えはやはりぬぐいがたい。あと、若い頃のショパン演奏はすごく上手いのだが、けっこう個性的…というか、テンポ感などがあまり伝統的ではない感じの解釈で弾いていたんだなと思った(私は18歳までピアノをやっていて、一時は音大を受けて楽理をやろうかと思っていたくらいはクラシック音楽が好きだったのだが、子どもの頃に「お手本」として聞いていたようなショパンとはなんとなく違う感じがする)。日本でめちゃくちゃ人気があったらしいのだが、あまりクラシック音楽の伝統的解釈とかを気にしない国だからウケたんだろうか…しかしながら去年の『国宝』でも糖尿病で足を切断するせいで芸歴が途絶えるみたいな話があったのだが、このところの芸道映画では糖尿病の恐ろしさを訴えるものが多くて、まあ悲惨な話ではあるが、ある意味では啓蒙的ではあるのかな…と思う。

大変不条理なクローンSF~『ゴーレム』(試写)

 ピョトル・シュルキン監督特集の試写で『ゴーレム』(1979)を見た。

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 クローンSF…なのだが、ほとんどホラーみたいな雰囲気の映画である。ディストピア的な社会が舞台で、殺人容疑で取り調べを受ける男の話…なのだが、男はほとんど何も思い出せず、人間の身元とか記憶とかが全部ふたしかである。とにかく不気味で全体的にカフカの『城』とか『審判』みたいな感じ…であるものの、一方でカズオ・イシグロの一部の作品みたいな感じもする。

ポーランド版『バトルランナー』のような…『ガガ 英雄たちに栄光あれ』(試写)

 ピョトル・シュルキン監督特集の試写で『ガガ 英雄たちに栄光あれ』(1986)を見た。

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 宇宙ステーションの囚人の暮らしぶりが生中継される…みたいな内容で、設定じたいは最近リメイクされた『バトルランナー』(1987)と似ている気がするのだが、雰囲気はまあ中東欧SFらしく大変鬱な感じである。乱痴気騒ぎの後血祭りにあげられる運命…みたいなところはむしろ中世から近世あたりの無礼講の王などを思わせるところがあり、中東欧のおとぎ話やフォークロアみたいな雰囲気もある。そこがなかなか不思議なSFで、80年代の世界的トレンドと伝統があわさったみたいな作りである。