『芸術新潮』3月号に『COUNT ME IN 魂のリズム』のレビューを書きました

 『芸術新潮』3月号に『COUNT ME IN 魂のリズム』のレビューを書きました。内容は「なんでロックのドラムの歴史に関するドキュメンタリー映画なのにラッシュのニールが出ていないのか」についてです。

 

現実離れした楽しいダンス映画と思ったら…『ストリートダンサー』(試写、ネタバレあり)

 レモ・デスーザ監督『ストリートダンサー』を試写で見た。こちらの映画はもともと「ABCD」というダンス映画シリーズの続編として企画されたらしいのだが、権利関係で別の映画になったそうだ。

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 インド映画だが、舞台はロンドンで、登場人物はインド系のダンスチームであるストリートダンサーとパキスタン系のダンスチームであるルールブレイカーズである。サヘージ(ヴァルン・ダワン)はケガをした兄からストリートダンサーを引き継ぐが、イナーヤト(シュラッダー・カプール)率いるルールブレイカーズとライバル関係にある。兄のためにどうしてもストリートダンスのコンテストである「グラウンド・ゼロ」に勝ちたいサヘージだったが、これまでのチャンピオンであるロイヤルズに引き抜かれてしまう。一方、ホームレスの南アジア系移民たちを助けるボランティア事業のためお金が必要なイナーヤトも「グラウンド・ゼロ」に勝って賞金が欲しいと思っていた。

 途中でレストランオーナーのラーム(プラブデーヴァー)が実は歴戦のダンスの達人だったということがわかり、マイケル・ジャクソンオマージュのダンスを踊ってルールブレイカーズの助っ人に…というあたりまでは、いかにも現実離れした楽しいエンタテイメント映画なのだが、ところどころに差し挟まれる南アジア系ホームレスの窮状とか印パ対立の話が妙に深刻だと思ったら、この映画は実際にロンドンでホームレス救済事業をやっているシク教徒のチャリティ団体であるNishkam SWATの活動をヒントにしているそうで、最後にこの団体に関する説明のクリップも流れる。クライマックスのダンスバトルでは、シク教徒の移民で騙された末にホームレスになってしまったミュージシャンたちがダンサーたちに加勢するというちゃんとしたオチもあり、意外と真面目なところもある映画である。また、これも『弟は僕のヒーロー』や『僕らの世界が交わるまで』同様、社会のことに無関心でチャラい男の子と、真面目で社会のためにいろいろ活動している女の子のロマンスでもある(こういうのは世界的に流行っているんだろうか…)。

 とにかくダンスは面白いし、展開も飽きさせないのだが、少し気になったのは印パ対立関係の描写である。インド系とパキスタン系のグループが同じレストランでクリケットを見て双方に対するヤジを…というような描写は誇張してあるものの実際にロンドンとかだとあるのかもしれないので面白いのだが、ムスリムのイナーヤトとヒンドゥー教徒が多いと思われるストリートダンサーを率いるサヘージの和解と協力を象徴する場面で流れる歌がなぜかガネーシャ神の歌詞で、信仰を問わず協力しなければいけないという箇所なのにヒンドゥー教の神様を歌った歌が入るのは文脈にあわなすぎでは…と思ってしまった(何か私がよく理解できていない南アジア特有の文脈があるのかもしれないが)。また、この印パの和解をけっこう大きなテーマとして持ってきたせいで、シク教徒がボランティアで活躍しているというこの映画のヒントになった事実があまりクロースアップされておらず、シク教徒については気の毒な被害者という側面ばかり強調されてしまっているように思うので、そこもちょっとバランスがあったほうがいいのではと思った。

剣の場面がいい~東京芸術劇場『マクベス』

 東京芸術劇場でノゾエ征爾演出『マクベス』を見た。劇団はえぎわと彩の国さいたま芸術劇場の共同企画である。

 木の椅子が床いっぱいに整然と並べられているステージでの上演である。灰色が基調で四角いマークが入った独特の衣装が使われている。魔女役の役者などは1人で複数の役をつとめている。

 序盤はいまいち流れが良くないような気もしたのだが、マクベス(内田健司)が幻想の剣を見るところの演出がとても良かった。魔女が剣を持って入って、マクベスが摑もうとすると別の魔女にとられて、ちょっとマクベスが剣に触れたと思ったらまたとられて…というような動きが続く。マクベスが剣を持てたかと思うと、魔女のひとりが剣に水のような液体をかけて剣が黒っぽくなり、マクベスにはそれが血に見える。それ以降も血が黒い液体で表されていて、マクベス夫妻は手を洗ってもほとんどこの黒い液体が手から落ちない。マクベス夫妻には自分の手が血に染まっているのが常に意識の中にあるはずなので、これはちょっと面白い。この見える/見えないの境界を思い切りマクベス夫妻の主観で「見える」ほうに振っているのはいいと思う。

 ただ、テクストをかなりカットしているわりに、新しく入れたものがあんまり面白くないというところがある。序盤の二の腕に関する冗談は全く面白くない…というかダンカンがマクベス夫人にセクハラしてマクベス夫人がそれを受け入れるだけなので、ここは何をしたかったのかよくわからない。原作にない冗談はほとんどいらないのではと思った。あと、マクダフ一家が殺害されるところで加川良の「教訓I」が歌われるのは、それここで歌う歌か…?とかなり疑問に思った。

『新コンセプト 現代の国語』に『批評の教室』がのりました

 浜島書店の問題集『新コンセプト 現代の国語』に『批評の教室』の問題が掲載されました。

 

 

あまりパッとしないホラー~『ハンテッド 狩られる夜』(試写)

 フランク・カルフン監督『ハンテッド 狩られる夜』を試写で見た。

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 アリス(カミーユ・ロウ)は深夜に不倫相手とともにガソリンスタンドに寄ったところ、突然お店の中で銃撃される。店に入ってきた不倫相手も殺され、携帯電話も壊れてしまう。トランシーバーで話しかけてきた相手に警察を呼ぶよう頼むが、その相手こそが銃撃犯人だとわかる。

 銃撃犯が妙に政治的なのだが、もともと保守派だった人がネットで急に何かにハマり、妻の不倫に対する憎悪で女叩きをはじめつつ反ワクチンになった…みたいな感じで、陳腐な話をひたすらトランシーバーでしているだけなので、そんなに鋭い社会諷刺になっているわけではない。また、ヒロインのアリスが妊活中で、途中で小さな女の子が巻き込まれたせいでやたら強くなるのだが、このへんの「母は強し」展開もずいぶんと定型的である。最近こういうのが少し流行っているのかもしれないが、同じような展開なら『死霊のはらわた ライジング』のほうがまだ上手にやっていたと思う。

eスポーツのことがよくわからなくても楽しい映画~『PLAY! 勝つとか負けるとかは、どーでもよくて』(試写、ネタバレあり)

 『PLAY! 勝つとか負けるとかは、どーでもよくて』を試写で見た。

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 舞台は徳島の高専である。ケガでバスケットボールを諦めた達郎(鈴鹿央士)は『ロケットリーグ』というゲームの達人で、3人でチームを作って出場するeスポーツ大会への出場を計画する。張り紙に反応した翔太(奥平大兼)と、達朗が無理矢理リクルートした亘(小倉史也)でなんとかチームを編成する。全くの初心者の翔太と、やる気ゼロの亘を従え、チームは前途多難だが…

 

 私は基本的に自分がよく知らないスポーツなどをわかりやすく見せてくれる映画が好きなのだが(全然モータースポーツのことを知らないのだが『ラッシュ/プライドと友情』が大好きだ)、これは『ロケットリーグ』というゲームのことを全く聞いたことがなくてもよくわかるように作ってあり、その点では非常に気に入った。また、登場する高専生のうち、達郎と翔太は家庭に問題を抱えており(とくに翔太は極めて深刻である)、ゲームが心の支えになっているところがある。この2人はアメリカ映画とかなら非行に走っていそうなくらい家庭環境に問題ある気がするのだが、何しろ日本の田舎の高専生なのでなんだかんだで学力が高そうで真面目である一方(たぶん高専に行ったことがある人が見ると高専あるあるとネタとかも入っているのかもしれないと思う)、明らかに日常の苦労を忘れて楽しく打ち込めるものを必要としているので、そこでゲームがポジティブな役割を果たしている。なお、達郎は必死に勉強しなくても何でもできてしまうタイプの秀才、翔太は女の子にモテそうな愛嬌のある金髪、亘は超マイペースでVチューバーにハマりまくっている典型的オタクである。あまり背景がよくわからない亘はたぶん比較的リッチな家庭の子どもだと思うのだが、途中まで本当に呆れるくらいやる気ゼロなのに周りのペースに巻き込まれてだんだんやらざるを得なくなってしまうキャラで、けっこう面白いし演じている小倉の演技も良いので、もう少し描きこんでほしかった。

 また、ネタバレで恐縮なのだが、まあタイトルで示唆されているとおり、この映画は主人公チームが勝たないスポーツ映画である。女子スポーツの映画だとなぜかそういうのが多いのだが、これもまあ勝てそうにもないよね…と思って結局勝てないものの、それよりも楽しいほうが大事じゃないか!というオチになる。私も勝ち負けよりも楽しいのが一番大事だと思うので、そのへんは爽やかな映画だと思う。eスポーツを若干美化しすぎな気はするが、かなり面白く見られた。

展開は強引だが、ベテラン俳優陣の演技だけで見る価値はあり~『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』(試写)

 『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』を試写で見た。

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 グレース(ダイアン・キートン)とハワード(リチャード・ギア)、サム(ウィリアム・H・メイシー)とモニカ(スーザン・サランドン)はいずれもあまりうまくいっていない中年の夫婦である。グレースとサム、ハワードとモニカはひょんなことから不倫をしそうになり、互いの身元をよく知らないまま別れる。一方でグレースとハワードの娘であるミシェル(エマ・ロバーツ)と、サムとモニカの息子であるアレン(ルーク・ブレイシー)は交際しており、友人の結婚式をきっかけに破局寸前になる。両者は自分たちの親に相談し、親夫婦たちは相手の親に不倫しそうになった相手がいるとは知らずにお互いの家族で会う計画をたてる。

 舞台劇が原作だそうで、全体的に舞台っぽい設定・展開である。舞台だとこういうちょっと強引な展開も笑わせて通してしまうことができるのでやりやすいと思うのだが、映画にするとけっこう人工的な感じがするのは否めないし、そのわりによくあるロマコメ映画っぽい感じにまとまっているのもあまり新しさがないと思う。ただ、キャスト陣はベテラン揃いなのでそこは面白い。相変わらず色っぽくてパワフルなスーザン・サランドンと、あいかわらずかわいくて文化系女子の鑑みたいなダイアン・キートンがどっちも良い年のとり方をしていると思った。