新刊『学校では教えてくれないシェイクスピア』 をよろしくお願い申し上げます。

これ、ダブリンにする必要ある?~Father Mother Sister Brother

 ジム・ジャームッシュの新作Father Mother Sister Brotherを見た。アメリカの田舎町、ダブリン、パリを舞台に3つの家族の集まりを描いた作品である。それぞれの家族は全然関係がないのだが、いくつか全てに登場する要素があり、違うように見える家族にも共通性があることを表現していると思われる。

 'Father'はアメリカが舞台である。田舎で暮らしている父(トム・ウェイツ)に息子のジェフ(アダム・ドライヴァー)と娘のエミリー(マイム・ビアリク)に会いに行く話である。このお父さんは今まで働いたことがないそうで、どうやって生計を立てているのかもよくわからない。雪で埋まった家で暮らしており、久しぶりに子どもたちと会うのでなかなか居心地が悪いところもある。このエピソードはかなり面白く、ユーモアもある(ビアリクの政治的傾向は置いておくとして)。

 'Mother'はダブリンの話である。売れ筋の作家でかなりリッチである母(シャーロット・ランプリング)に娘のティモシア(ケイト・ブランシェット)とリリス(ヴィッキー・クリープス)が訪ねてくるという内容である。ただ、これは全然ダブリンらしくない…というか、最初に出てくるリリスのガールフレンドであるジャネット(セイラ・グリーン)以外、誰もアイルランド人に見えないし、とくにリリスはしばらく大陸ヨーロッパに住んでいたという設定なのだが、アクセントが全然ダブリン人らしくない。

 'Sister Brother'はパリに住んでいたが両親を亡くしてしまったアメリカ人の兄妹であるビリー(ルカ・サバット)とスカイ(インディア・ムーア)の再会の話である。これが居心地悪さが一番ない…というか、ふたりとも仲が悪いわけではないし、両親についてしみじみ思い出す話なので前の2話よりも断然、人情噺っぽいし、またジャームッシュらしい「外国人が大都市にいる」感じの話になっている。

後世の音楽に影響を与えたアーティストの創作を探る~『メレディス・モンク 踊る声、歌う身体』(試写)

 『メレディス・モンク 踊る声、歌う身体』を試写で見た。

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 メレディス・モンクの創作を追ったドキュメンタリーである。メレディスは3オクターブの音域を生かした前衛的な声楽を中心に、さまざまなパフォーマンスアートや映像作品、インスタレーションで活躍するマルチなアーティストである。最初はアート界で笑われていたが、今では現代アートのみならずポピュラーミュージックの世界にまで及ぶ影響力を誇る芸術家である。

 名前を聞いたことがある程度で全然この人の創作についてよく知らなかったのだが、80過ぎでも(こういうことを言っていいのかわからないが、私の感覚では超イケてるセンスの)三つ編みの髪型で、ニューヨークで亀と暮らしているメレディスはまるでおとぎ話に出てくる良い魔女みたいな感じの人で、キャラクターにまず引き込まれる。作っている作品は大変不思議な感じであまりとっつきやすくはないと思う…のだが、途中でビョークが出てきて影響を公言しており、言われてみればたしかにビョークはこの人の直系みたいな女性ヴォーカルだし、90年代にたくさん出てきた高音で魔女みたいに歌う一連の女性アーティストの元祖のひとりはメデレィス・モンクなのか…ということがわかった(ケイト・ブッシュが70年代にバカ売れしたからだと思っていたのだが、ブッシュ以前にこういうものがあったんだなと思った)。デイヴィッド・バーンも影響を受けているそうで、たしかにサウンドの雰囲気はけっこう似ている。

ラップするマキューシオ~『ロミオとジュリエット』

 Pit昴で劇団昴の『ロミオとジュリエット』を見た。田中壮太郞演出である。

 完全に現代の設定で、グラフィティのあるそのへんの道路みたいなセットである。戦争や暴力を前面に押し出し、恋人たちがそうした状況の中、両家の抗争によって引き裂かれる様子を描くことで平和を訴えるような演出になっている。ICEみたいなロゴをつけたエスカラス親衛隊的な警官部隊が出てくるし、最後に戦争のような音響がかなりうるさく響くところがある。

 マキューシオ(町田大征)がラッパーで、ロミオ(勝田望夢)たちがラップバトルを趣味にしているのが特徴である。マキューシオがかなりエネルギッシュで面白いし、乳母(大矢朋子)までそれが伝染してしまったりするところが笑える(先日、河合祥一郎先生の退職記念でラップ版『ピラマスとシスビー』をやった私としては我が意を得たりという感じだ)。一方でロミオとジュリエット(ともちかゆま)は、表情や身振りは大変良いのだが、序盤はちょっと長台詞を扱いかねているような感じがある。とくにロミオはラップ調で話している時のほうがかなり自然である。これは福田訳がちょっと古くて現代的な設定と食い合わせが悪いからじゃないかな…という気もする。

イヤな話だが、とてつもない才能を感じる~『青森県のせむし男』

 ザムザ阿佐ヶ谷にて流山児祥演出、寺山修司『青森県のせむし男』を見てきた。青森県の田舎で金持ちの大正家の奥さまとなり、家の財産を使い潰して復讐することを目指すマツ(伊藤弘子)と、母を求める「せむし男」こと松吉(三上陽永)の関係を中心に、さまざまな人の感情のもつれを描いた作品である。

 見せ物小屋みたいな舞台に浪曲の生演奏もあり、歌や踊りあり、音楽劇みたいな作品である。この音楽劇っぽさはブレヒトに似ている…が、ブレヒトみたいなクリアで洗練されたロジックとは全く逆の、田舎の泥臭い情念と不条理な展開が特徴である。全体としては、非常にねじれたイヤな感じがするレイプリベンジもの+歪んだ母恋、という感じである。非常にエネルギッシュでわちゃわちゃした演出で見ていて飽きない…のだが、面白いか、好きかというとまた別で、正直なところ、私は性暴力や障害が持たされている象徴性や、母を通して表現されるミソジニーについてはかなり引っかかるし、全体的にあまりにも話が暗いのもそんなに好みではないのだが、ただとてつもない才能は感じる。

 なお、前に見た三島由紀夫の『薔薇と海賊』も一種のレイプ&リベンジものだと思ったのだが、なんというか日本の戦後の男性劇作家による性暴力の扱いにはけっこう気になるところがある。プロットデバイスとしてしか考えていないみたいな気もするのでなんかダメなんじゃないかとも思う一方、演出次第ではすごく現代的な芝居になり得る気もしている。

 

墓掘りはクビ~イエローヘルメッツvol.5『ハムレット』

 山崎清介演出、イエローヘルメッツvol.5『ハムレット』を見た。

 2時間15分くらいにかなり刈り込んだ上演である。独白がほとんど機能していない…というか、ひとつの独白を複数人で言ったり、ばらばらに分解して短いまとまりにしたり、あるいは独白なのに他人に聞こえていたり、いわゆる独白らしい独白ではない形で言っているところが多いのだが、ハムレットやクローディアスのまとまらない思考の流れみたいに提示されているので、そこはちょっと面白い。劇中劇もちょっと変わっており、劇団はヘルメットをかぶっているのでどうやら宮殿建築のバイトもしているらしいし、途中から『マクベス』みたいに先王の亡霊が現れて芝居の席でクローディアスをびびらせたりする。いつもイエローヘルメッツが使う人形が今回はもとの台本にはない死神の役で出てきてちょっとした存在感を発揮している。

 カットが多いため、「ここもないのか」みたいなところはけっこうある。とくに終盤にかけてはすごいスピードで進む。墓掘りが全カットなのは珍しい…というか、あれがないとかなりわかりづらくなるのではという気はした。

リミナルスペースの可能性を秘めた場所としてのコンビニ~『チルド』(試写)

 『チルド』を試写で見た。

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 東京にあるエニーマートというコンビニが舞台である。堺(染谷将太)はずっとこのコンビニで働いており、決まり切った仕事を毎日こなしている。このコンビニにはものすごく規律遵守にうるさいオーナー(西村まさ彦)がおり、規則をたてにバイトをクビにしたりしている。新しいバイトの小河(唐田えりか)が入ってきて少し店の雰囲気が変わってくるが…

 コンビニをリミナルスペースとなる可能性を秘めた場所としてとらえる…みたいな感じのホラー映画である。決まり切った作業の繰り返しでお客の文句も聞かないといけないディストピアっぽい空間としてコンビニをリアルにとらえている一方、あまり人間がとどまらない場所にとどまっているオーナーや堺を特異点としてコンビニをちょっとホラーファンタジー的な視点でとらえている。狭くていたるところに危険物(調理道具とか)があり、あんまり居心地が良くなく、いつもは賑わっているはずなのにたまに人がいなくなる妙な場所としてコンビニを撮っており、日常的に通過する場所が急にヘンなものとして見えてくるという点では『8番出口』とかに近いのでは…という気もした。染谷翔太はこのところいろんな映画で大活躍だが、役柄も多様でうまいな…と思っている。

 

リミナルスペース

リミナルスペース

  • 作者:ALT236
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