始まり方からしてかなり舞台演出をきちんと研究して映像に移していると思われる。舞台では初っ端から輪っかみたいなものに入ったグリンダが降りてくる特殊効果が目の前で繰り広げられるので、「おう、真面目に集中して見ないと」と思うわけだが、映画ではアリアナ演じるグリンダがキラッキラな衣装と椅子つきでバブルに入って飛んでくるところを見せつつ、アリアナの微妙な表情をきちんと撮っていて、「なんだか妙な話が始まるぞ」という雰囲気をきちんと醸し出している。中盤のダンスナンバーである"Dancing through Life"は少し違うアプローチで映画らしい編集を駆使して盛り上げていて、これは舞台ではできないな…と思った。
全体的にむしろ舞台より面白いのでは…と思うところもあった。理由はふたつで、ひとつめはフィエロ(ジョナサン・ベイリー)のキャラがかなりしっかりしているところである。舞台のフィエロはまあよくいる色男…みたいな感じなのだが、ジョナサン・ベイリーのフィエロは妖艶さが異常で、歩くだけで年齢・性別を問わずシズ大学の全員を魅了してしまうカリスマ王子である一方(グリンダの取り巻きであるボーウェン・ヤン演じるファニがフィエロにメロメロで話しかけるところはとにかく笑った)、エルファバに「あなた実は不幸でしょ?」みたいに気持ちを見透かされるところでは驚くほど傷つきやすそうな深みを見せており、ずいぶん奥行きのあるキャラクターである。"Dancing through Life"でフィエロが図書館の本を粗末にしながら色気を振りまきまくるのは司書経験者としてちょっとどうかと思ったが、そこで「こいつダメでしょ」みたいな表情のエルファバが後でフィエロの人生が実は満ち足りていないことを指摘するので、つまりこれは本(体系化された過去の知識)を軽視するのは一見楽しいけど実は幸せな人生につながらないよ?ということを示唆しているなかなか複雑な展開なのだと思う。