素直にヘンリアドを上演できなくなったら~『悪い仲間』

 河合祥一郎作・演出『悪い仲間』を早稲田小劇場どらま館で見てきた。主に『ヘンリー四世』二部作と『ヘンリー五世』を中心に、シェイクスピアのいろいろな作品やジャリの『ユビュ王』、フランスの軍歌などいろいろな要素を取り入れた作品である。日本語だけではなく、フランス語や韓国語も使われ、どうも現代の戦争らしい戦いとシェイクスピアの世界が交錯する。『悪い仲間』というタイトルは、フォルスタッフ(髙山春夫)とハル王子(今井聡)、その仲間達を指している。

 ロシアによるウクライナ侵略を直接題材にしている…というか、明確に組み込んだ作品である。ヘンリアド(『リチャード二世』、『ヘンリー四世』二部作、『ヘンリー五世』)は戦争についての作品であり、とくに『ヘンリー五世』は演出方法によってはかなり好戦的になる演目だ。一方で『ヘンリー四世』二部作のフォルスタッフや『ヘンリー五世』の一般兵卒たちは戦争によってもたらされる名誉に疑問を呈する存在であり、このあたりの作品は多様な視点が存在する複雑な内容であり、必ずしも戦争を肯定していると言えないところがある。『悪い仲間』は、『ヘンリー四世』二部作の最後で放擲されるフォルスタッフを取り戻す試み…というか、戦争に怯え、名誉を言葉だけの虚しいものと見なすようなフォルスタッフ的な態度のほうが、実際は現在のような戦争の世の中では必要なのではないか、ということを示唆するものになっている。フォルスタッフはいったい何なのか、というのはヘンリアドにおける大変大きな問題なので、『悪い仲間』はそれに対するひとつの回答なのだろうと思う。ヘンリアドはたしかに素直に上演しにくい作品で、ナショナル・シアター・ライブの『ヘンリー五世』もわりと「ハルは本当に有能か?」みたいな切り口で上演をしていたのだが、『悪い仲間』はこういう試みをもっと推し進めたものだと思う。