ちょっと人を舞台に出し過ぎなような……『サロメ』

 無名塾サロメ』を見てきた。江間直子演出で、すみだパークシアター倉で上演された作品である。光文社から出ている平野啓一郎訳が使用されている。

 舞台は真ん中に丸い台があり、右奥に段、左側には演奏ブースがある。黒い服を着て始終ぶすっとしているサロメ(南千尋)を中心に、抑圧されたサロメの鬱屈した楽しめない暮らしに焦点を当てた演出である。そういうコンセプトはよくわかるのだが、演出はけっこう人間を舞台に出し過ぎだと思った。全体的にコーラスっぽい人たちがごちゃごちゃ動いていて、ちょっと見ていて煩わしいと思えるところがある。また、サロメが初めのほうから真ん中の台のところにいるのだが、私は最初のところはできるだけサロメは舞台に出さず(出さなくてもOKな台本になっている)、サロメが見えるところにいる人たちが王女の噂をしているだけでいいのではないかと思っているので、これだと舞台がごちゃごちゃするだけでは…と思った。また、ヨカナーン(江間直子)は井戸みたいな牢獄に入れられているはずなのだが、途中からヨカナーンがほぼ出ずっぱりで、これはヨカナーンを見せすぎだろうと思った。見えないのに声だけ聞こえて、それをサロメは渇望し、他の人々っは怖れるというのがこのお芝居のポイントなのではと思うので、ヨカナーンを見せすぎだと思う。

 また、これは好みの問題だが、サロメのダンスは全然面白くはない。いろんなヴェールでサロメを取り巻き、周りでコーラスみたいな人たちが引っ張るという振付になっていて、まあサロメが受けている抑圧とそれへの抵抗を示しているのはわかる…のだが、コンセプトはわかるが視覚的には全然面白くない動きになっていると思う。ここでダンスが踊られるというのは、サロメが押しつけられたものの中で精一杯自己表現をしているということだと思うので、こういうただコンセプトを見せるだけみたいな頭でっかちなダンスではなく、もっと自由でダイナミックな動きを見せたほうがいいのではないかと思う。