タイトルに偽りあり?Underdog: The Other Other Brontë

 サラ・ゴードンの新作戯曲Underdog: The Other Other Brontëをナショナル・シアターで見てきた。演出はNatalie Ibuで、Norther Stageとの共同プロダクションである。タイトルどおりブロンテ姉妹を扱った作品だ。

www.youtube.com

 タイトルからすると姉妹の中で一番知名度が低いアン・ブロンテ(ライアノン・クレメンツ)をヒロインにしているように見える…のだが、実質的にはシャーロット(ジェマ・ウィーラン)の話になってしまっている気がして、ちょっと看板に偽りありである。シャーロットがいかにアンに強いライバル心を抱き、アンの邪魔をしていたかみたいなことが語られる。シャーロットはエミリー(アデル・ジェームズ)の邪魔もしていたと思うのだがそのへんは全然描かれておらず、エミリーの役はかなり小さい。姉妹間のライバル心を描いているものの、そこまで掘り下げた描写は少なくてそんなに面白いと思わなかった。ただ、プレビューでまだちょっと演技がこなれていないように見えるところもあったので、それも関係しているかもしれない。

 ヨークシャの荒野を思わせる植物をあしらったセットは面白く、冒頭でこれが上にあがって下が舞台になる。ただ、この植物はもっと活用してほしかったような気がする。舞台は回転などをうまく使っていて、動きはある演出だ。

「ウィ・アー・ザ・ワールド」収録の舞台裏~『ポップスが最高に輝いた夜』(配信)

 Netflixで『ポップスが最高に輝いた夜』を見た。「ウィ・アー・ザ・ワールド」収録時の舞台裏に関する音楽ドキュメンタリーである。

www.youtube.com

 Just for One Dayとほぼ同じ頃に見たのだが、「ウィ・アー・ザ・ワールド」も先例のバンドエイド同様、なかなか曲ができないとか誰が来るのかよくわからないまま日が過ぎていくとか、同じような苦労があったんだな…と思った。忙しい大スターが揃うタイミングがあまりないということで「ウィ・アー・ザ・ワールド」はアメリカン・ミュージック・アウォードの日の夜に収録されたのだが、このドキュメンタリーを見ていると、収録日は深夜のせいかみんなちょっとテンションがおかしい感じがする。これまた多忙な人であるボブ・ゲルドフが呼ばれて気合いを入れるための説明をするところがあり、ゲルドフがいろいろアフリカのことに詳しいのでけっこう役に立っている感じがする。シンディ・ローパーのマイクが謎の雑音を拾ってしまうくだりはちょっと笑った。

アイルランド文学博物館

 アイルランド文学博物館(Museum of Litarature Ireland、略称MoLI)に行って来た。ここは2019年オープンで比較的新しい博物館である。展示は一般的なアイルランドの文学についてのものがある他、大部分はジェイムズ・ジョイスが中心である。

アイルランドの作家をずらっと並べた展示

『ユリシーズ』の"Meeting of the water"という引用の下にトイレの案内

トイレの表示がこれ。

 セント・スティーヴンズ・グリーンのすぐ側にある。

緑の公園にあるあずまや

セント・スティーヴンズ・グリーンのあずまや

 

兄と妹の陰惨な人間ドラマ~『モルフィ公爵夫人』

 レイチェル・バグショー演出『モルフィ公爵夫人』をサム・ワナメイカー・プレイハウスで見てきた。

www.youtube.com

 『モルフィ公爵夫人』は一度イギリスで見たことがあり、日本ではあまり上演されないが、イギリスでは女優の技術の見せ所としてよく知られた作品である。現代にも通じる人間関係を扱ったスリラー的な作品だが、一方で狂気を見せ物とするなどいかにもジャコビアン…というところもある。サム・ワナメイカー・プレイハウスは何しろろうそくの光で上演できる設備を備えているので、秘密と闇にあふれたこの芝居にピッタリの舞台である。

 『モルフィ公爵夫人』はもともと近親相姦的な感情をめぐる物語なのだが、この演出ではかわいらしい妹に執着する兄のねじれた愛情が非常に強調されている(ちょっと『暗黒街の顔役』を思い出した)。モルフィ公爵夫人役を低身長症のフランセスカ・ミルズが演じているのだが、愛らしくてほかの兄貴2人とは比べものにならないような気品があり、兄のファーディナンド(オリヴァー・ジョンストン)はこの妹が可愛くてたまらないし、手放したくないと思っている。この演出では、登場人物はだいたい現代風な衣装を着ており、ジャズの生演奏があるのだが、一番最初にモルフィ公爵夫人がキラキラした白いドレスを身につけて舞台に登場し、ジャズアレンジのシザー・シスターズの'Filthy/Gorgeous'に合わせて踊るところは、まるで暗い舞台に光るキャンドルみたいにチャーミングである。ところがやっと寡婦になったと思った妹が、自分の意志で身分の低い執事アントニオ(オリヴィエ・ハバンド)を選んだと知った途端、ファーディナンドは妹をとられたと思って完全に狂乱する。この「妹萌え」みたいな感情が一瞬で強い加害欲に変わるところが凄まじく、妹を虐待し始めたファーディナンドは全然幸せそうに見えないし、みるみる精神の安定を失っていく。毅然として逆境でも優雅さを失わないモルフィ公爵夫人と、理性を失ったファーディナンドの対比がはっきりしている。もうひとりの兄である枢機卿(ジェイミー・バラード)はあまり弟妹への愛情がなく、お金のことばかり考えているみたいで、このあたりの対照も明確だ。全体として兄と妹の陰惨な人間ドラマで、妹をひとりの人間として尊ぶのではなく、自分の持ち物のように愛してしまったファーディナンドの暴力性と、それに立ち向かわざるを得なくなるモルフィ公爵夫人の強さを描いている。

 なお、このプロダクションの特徴としては、セリフを詩みたいなキャプションとして背景のいろいろなところに投影するというのがあるのだが、これはあんまりいいと思わなかった。席によってはほとんど見えない。また、詩みたいな書き方になっているので字幕としての実用性もそんなにないのでは…と思う。

KUNILABOのブックトークに参加します

 5月25日(土)19時より、「KUNILABO春のブックトーク 西村紗知『女は見えない』」に参加することになりました。ダブリンからのオンライン参加になります。お気軽にご参加くださいませ。

 

 

 

包括的性教育教材『コロカラBOOK』にインタビューが掲載されました

 正進社から出た中学生向けの包括的性教育教材『コロカラBOOK』にインタビューが掲載されました。pp. 98-99でフェミニスト批評の話をしています。包括的性教育はとても重要だと思うので、是非中学校で使ってほしいと思っています。

www.seishinsha.co.jp