『青いカフタンの仕立て屋』を試写で見てきた。『モロッコ、彼女たちの朝』のマリヤム・トゥザニ監督作である。
ミナ(ルブナ・アザバル)とハリム(サーレフ・バクリ)の夫婦は、手仕事で作る伝統衣装カフタンの店を営んでいる。腕利きの職人であるハリムは手伝いとして若いユーセフ(アイユーブ・ミシウィ)を雇う。センスのいいユーセフとハリムはだんだん接近していくが…
自分の男性に対する恋心を抑圧しているハリムとユーセフの、年の差があってもセンスで惹かれ合うロマンスをロマンティックに描いている一方、それを見ているミナの心の揺れ動きも丁寧に動いている作品である。カフタンや食べ物の描写がけっこう凝っており、とくにカフタンはなかなか全体を見せない撮り方でお客さんの気を惹く一方、料理は前作『モロッコ、彼女たちの朝』同様、家庭料理なのになんともいえない豪勢さがある感じで撮っている。美しい映像と行き届いた描写の恋愛ものである。
そういうわけで出来としては文句のつけようがないのだが、全く個人的な趣味でメロドラマ的すぎるなぁ…と思えるところがあった。ミナが不治の病にかかっており、いろいろ悩んだ末に夫を新しい恋人であるユーセフに預けて旅立つ、というのはちょっと女性の自己犠牲をメロドラマ的に称揚しすぎではという気がする。抑圧的なモロッコでこういう話にならざるを得ないのはわかるのだが、私はもうちょっとドライな話のほうが好きだなと思う。