最後の辻褄合わせがちょっと甘いのでは?『わが家の最終的解決』(ネタバレあり)

 恵比寿エコー劇場で『わが家の最終的解決』を見てきた。これは何度か再演された芝居で、前回のチラシのデザインがあまりにもひどかったため私はだいぶ批判したのだが、今回は良いデザインだと思ったので見に行ってきた。

 舞台は1942年のアムステルダムで、ゲシュタポの一員であることを隠してユダヤ人の恋人エヴァをかくまっているハンスを主人公に、次から次へとドタバタがもちあがる笑劇である。こういうテーマをコメディとして処理しているところはいいと思うし、笑えるところはたくさんある。ただ、この手の作品(私があまり好きじゃないレイ・クーニーの笑劇とか)にありがちな辻褄が甘いところがいくつかあるのがちょっと…と思った。最後にゲルトナーがオットーに気付かないのは、せっかく仕込んだネタが全く生きてなくてなんかすっ飛ばされたような感じになってしまっていると思う。ゲルトナーとオットーの間で一悶着あってゲルトナーが結局オットーを見逃す…という落とし方なのかと思ったが、ゲルトナーは気付きもしなかった。また、エヴァのところに原稿をとりにくる男(名前不明)がいるのだが、この男の設定がけっこう曖昧で、一応本人はユダヤ系だという言及があるのだが、じゃあなんでユダヤ系なのに隠れていないで普通に外を歩いているのか…と思うし、ユダヤ系なら最後のユダヤ人狩りのドタバタの場面であんまり慌ててないというのはおかしい(辻褄のためにはレジスタンスだっていう触れ込みにすべきなのでは?)。また、ルドルフはどうも同性愛者ではないかと思われるのだが、これもナチスが同性愛者を迫害していた話につながるのかと思ったら全然ちゃんとつながらない(最後にこれでルドルフを説得するのかと思ったらそうではなかった)。全体的に、仕込んだネタが最後で生きていない感じがする終わり方だった。

こんなのは地獄じゃない~神奈川芸術劇場『出口なし』

か KAAT神奈川芸術劇場白井晃演出サルトル『出口なし』を見てきた。ガルサンが首藤康之エステルが中村恩恵、イネスが秋山菜津子である。これを生で見るのはたぶん4回目くらいである。

www.kaat.jp

 いろいろ工夫したのはわかるのだが、全体に全く趣味でなくて辛くて眠かった…とりあえず、全体に踊りがあるのが良くない。踊りというのは気をつけないと美しくなりやすいが、『出口なし』というのは惨めで醜い地獄のような人生に関するドタバタしたブラックユーモア劇であって、美しかったりセクシーだったりしてはダメだと思うのである。言葉というのは醜悪な人生を表現するのは適しているが、その点、ダンスというのはどうしても美しく見えるところがあり(醜悪さを表現できないわけではないと思うが難しい)、鍛えられたダンサーが身体を動かすと芝居の見映えがひどくこぎれいになってしまう。これでは地獄ではない。

 さらに、サルトルは「まなざしの哲学者」で、『出口なし』は視線を問題化する芝居なので、ダンサーの動きを見て観客が純粋に喜んでしまうような演出ではダメだと思うのである。『出口なし』では登場人物が他者から見られることに過剰に意味を見出そうとしたり、他者を見ることで行動をコントロールしようとしたり、視線の権力をめぐる戦いが戯画化された形で醜く、諷刺的に描かれている。人は他者に見られ、他者を見ることで自分を確立するが、一方でその視線は容易に地獄になり得る。見ること、見られることのツラさについての芝居である『出口なし』に、美しい身体の居場所なんかないと思う。

『ルネサンス・バロックのブックガイド』の情報がアマゾンに出ました

 寄稿している『ルネサンスバロックのブックガイド—印刷革命から魔術・錬金術までの知のコスモス』の情報がアマゾンに出ました。

 

グレタ・ヴァン・フリートのライヴに行ってきました

  新木場 Studio Coastでグレタ・ヴァン・フリートのライヴに行ってきた。

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 楽しかったのだが、私はチビでほぼバンドが見えなかったため、たまに脳内の悪のハロルド・ブルームが「お前が聴いてるのはレッド・ツェッペリンだ」と囁きかけてくる妄想に襲われた。

キリスト教推しにちょっと違和感~OSK日本歌劇団『円卓の騎士』

 博品館劇場でOSK日本歌劇団『円卓の騎士』を見てきた。OSK日本歌劇団の公演を見るのは初めてである。

www.osk-revue.com

 内容はだいたいアーサー王伝説の大枠に沿っている。アーサー王エクスカリバーを手にして王になってからグウィネヴィアと結婚するものの、ランスロットとグウィネヴィアの仲を疑うようになり、モードレッドに殺されるまでを描いている。ただ、人物を少なくするため、イグレインを湖の乙女と同じ人物にしたり、モルゴースを出さずにモーガンをモードレッドの母にしたりしている。

 

 話はわりと緩急があり、ケルト風な植物文様などをプロジェクションで配したセットの美術も綺麗だし、歌や踊りも悪く無い。ただ、とても違和感があったのが、やたらキリスト教推しであるとこである。グウィネヴィアが既にキリスト強化されたコーンウォールの出身で、愛と平和の宗教であるキリスト教をやたら夫やランスロットに伝えようとする一方、マーリンはドルイドの魔術を使ってアーサーや周りの女性魔術師たちを操り、戦争をけしかけようとするイヤな魔法使いである。女性たちもマーリンに操られっぱなしで、可哀想だがあまりいいところがない。全体的に雰囲気がちょっと『アヴァロンの霧』(これはキリスト教批判が入ったフェミニストアーサー王ファンタジーである)風だったりするのにアンチドルイドキリスト教推しなので、ここがちょっとだけ鼻についた。

アヴァロンの霧〈1〉異教の女王 (ハヤカワ文庫FT)
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3月6日に武蔵大学公開講座にて「読み書きするシェイクスピア女子 ―近世の舞台芸術ファン活動」というテーマで話します

 3/4~3/7にかけて行われる武蔵大学第70回公開講座「英語で書かれる/読まれる世界の文学」にて、3/6に「読み書きするシェイクスピア女子 ―近世の舞台芸術ファン活動」というテーマで話します。

www.musashi.ac.jp

[[グレタ・ヴァン・フリート]]を作成

 週末ライヴに行くつもりなのでグレタ・ヴァン・フリートの記事を日本語版ウィキペディアに作りました。だいたい翻訳で、受容の節だけ自分で書いたのですが、レッド・ツェッペリンにソックリだということについてはなんかいろいろひどいこと言われてて、かわいそうやらおかしいやら。

ja.wikipedia.org