水難が続くゆるいシェイクスピアロマコメ~『恋するプリテンダー』

 『恋するプリテンダー』を見てきた。原作はシェイクスピアの『から騒ぎ』で、監督はこれ以前に『緋文字』の翻案である『小悪魔はなぜモテる?!』を撮っているウィル・グラックである。

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 法律を学んでいるビー(シドニー・スウィーニー)はとあるトイレのトラブルをきっかけに金融関係の仕事をしているベン(グレン・パウエル)と知り合ってこれこそホンモノの恋…と思うが、結局うまくいかずに1日で最悪の別れ方をしてしまう。ところがその半年後、ビーの姉であるハリ(ハドリー・ロビンソン)のガールフレンドであるクローディア(アレクサンドラ・シップ)がベンの親友ピート(GaTa)の姉妹であることが発覚する。ふたりはクローディアの父の実家であるシドニー郊外で結婚式をあげることになり、ビーとベンはお祝いに向かう。ビーとベンがあまりにも犬猿の仲で結婚式の雰囲気を台無しにしてしまうことを怖れた周りの家族たちは、このふたりをくっつけようとするが…

 意外ときちんと『から騒ぎ』に沿っており、何しろ主人公ふたりの名前がベネディックとビアトリスの短縮形であるベンとビーだし、ところどころでシェイクスピアのセリフが出てくる(砂浜とか看板に書かれていることが多い)。ヒーローとクローディオが騙されて仲違いする展開はカットされており、ふたりが喧嘩するふりをする程度の描写になっているが、オペラの『ベアトリスとベネディクト』なんかでもヒーローとクローディオの主筋はカットされていて先例があるので、そんなに意外ではない。ふたりのなれそめとかはジョス・ウィードンの『から騒ぎ』にちょっと似ており、スタッフの中にこの映画を見ている人がいると思う。

 一方で内容はかなりゆるいロマコメである。完全にスウィーニーとパウエルの華やかで息の合ったやりとりの面白さに頼っている作品で、脚本はだいぶいい加減だ。ビーがしょっちゅうトイレのトラブルに見舞われ、ベンも水に落ちまくっているなど、水難のたびにふたりが近づく…みたいなのはいいのだが、くっついたり離れたりする理由がけっこう引き延ばしみたいな感じでもたつき気味だ。2000年前後のロマコメみたいな感じで下ネタがいっぱい出てくるのはまあいいのだが、あの飛行機内のあまり展開に貢献しない下ネタは必要なのかとか、オーストラリアではみんなしょっちゅう裸でうろついてるんだみたいな雰囲気はそれでいいのかとか、下ネタとしても洗練度が低いと感じられるところがいくつかある。そもそもオーストラリアでやる必要があるのか…?というのもあり、一応クリスマス映画なのでホリデー観光映画っぽくしたかったが、東洋とかを舞台にするとオリエンタリズムが鼻につくのでオーストラリアにしただけなのでは…と思ってしまった。

 ただ、これだけゆるくて文句もたくさんある映画だが、スウィーニーとパウエルがビアトリスとベネディックをやっているのを見られるだけでけっこう楽しく見られてしまうというところもある。また、女性同士の結婚が誰からも祝福されるべき家族の一大行事として当たり前のように描かれているのはロマコメとして進歩…というか、これは2000年前後のロマコメにはそんなになかったことなので、新しいと言っていいと思う。ハリとクローディアのカップルも可愛くて感じがいいし、脇役でダーモット・マローニーやレイチェル・グリフィスなどが出ているので、そのへんも面白いところではある。