『ザ・バイクライダーズ』を見てきた。60年代にフォトジャーナリストであるダニー・ライオンが行った取材にもとづくバイカーギャングの映画である。
全体が若いフォトジャーナリストであるダニー(マイク・ファイスト)による取材という枠に入っている。メインの取材対象はキャシー(ジョディ・カマー)で、キャシーの語りによってお話が進む。キャシーはバイカーギャングであるヴァンダルズのメンバーであるベニー(オースティン・バトラー)に一目惚れして結婚するが、トラブルに巻き込まれがちなベニーのせいでいろいろ苦労することになる。
ざっくり言うと、キャシーとヴァンダルズのリーダーであるジョニー(トム・ハーディ)がベニーを取り合う話である。女性であるキャシーの視点で語られ、聞き手はインテリでアート系のよそ者であるダニーなのでちょっと一歩引いた感じで話が進むようになっており、この種の映画にしてはマッチョな感じが少ないのが面白い。しかも最後はベニーは完全にバイクを引退し、ジョニーは殺されてしまって、アウトローとは言ってもそれなりに統率がとれていてバイクを楽しむことが一番の目的だったヴァンダルズがただのヤバい犯罪集団になってしまうということで、「男らしい」男性ばかりの集団がいかに持続可能性が少ないかというようなことも示唆している。
面白いのはこの映画の中心とでも言うべきベニーが大変空虚な存在だということだ。キャシーが言っているようにベニーはヴァンダルズの他のメンバーに比べると段違いに美しく、ある種の優雅さみたいなものがある。一歩間違えばすごくダサくなりそうなヴァンダルズのジャケットを着て座っているだけで、何か見過ごせない輝きみたいなものを放っているように見える。ところがこの優雅さはたぶんベニーの空虚さから来ている。ベニーはバイクに乗ること、ヴァンダルズに忠実であることは重視しているのだが、それ以外のことについてはなんにも考えていない…というか、この人大丈夫なのか…と心配になってしまうくらい空っぽである。ものすごく衝動的な行動をとることがあり、その衝動のせいで周りの人が非常に心を打たれるような事態になることがあって、キャシーもジョニーもそのせいでベニーにコロっとやられてしまうのだが、ベニーはこの2人に同じレベルの熱量の愛を返すことができない。ジョニーはヴァンダルズをベニーに譲りたいと思っているのだが、ベニーには人を引きつける魅力はあってもヴァンダルズを運営する能力は全くない…と思われるのにジョニーは何か幻想を見ている。キャシーもベニーに幻想を見ている。ベニーはこの映画においてまぼろしを生む美しい空虚な中心である。このベニーの空虚な美しさが全体を支配しているせいで、何か60年代のバイカーギャングの黄金時代というものすらまぼろしだったのかもしれない…みたいな虚しさ、儚さが生まれており、そのへんがちょっと変わった映画である。