かわいいブロマンスの終わらせ方~アルメイダ、Hymn(配信、ネタバレあり)

 アルメイダが無観客配信したHymnを見た。ロリータ・チャクラバルティによる二人芝居である。チャクラバルティの夫であるエイドリアン・レスターがギルバート、ダニー・サパニがベニーを演じている。

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 葬儀の弔辞に始まり、別の葬儀の弔辞で終わる90分の芝居である。父のガスの葬儀で弔辞を述べたギルバートはベニーに話しかけられ、ベニーがギルバートと数日違いで生まれた母違いの弟かもしれないということを告白される。それまで尊敬していた父が浮気をし、さらに相手の女性と子供を捨てていたということを知ったギルバートはショックを受けるが、ベニーが弟だということを受け入れて家族として付き合うようになる。兄弟としてとても親しくなるギルバートとベニーだが、やがて破局が訪れる。

 基本的には二人の黒人男性が中年になり、若い頃とは違う形で自分のアイデンティティと向き合わなければならなくなる様子を描いた作品である。ミドルクラスのギルバートと貧しい育ちのベニーには大きな違いがあるが、これまで家族の中でも出来が悪い弟扱いだったギルバートは弟ができたことに喜び、一方で今まで苦労してきたベニーも家族の助けが得られるようになって、二人はとても親しくなる。育った環境が違っても、今まで黒人として人種差別を受けてきたり、同世代で同じような音楽にハマってきたり、仕事や家族のことで悩んでいるという点ではたくさんの共通点が見いだせ、それが二人の絆を強くする。この二人が若い頃を思い出して歌ったり踊ったりしながら仲良くなる様子が実にかわいらしく描かれており、おそらくこの作品で最も洗練されているのはこのギルバートとベニーが若い頃に戻ったような様子でふざけあうところである。ソーシャルディスタンシングのせいでハグや握手をしない演出にしたらしいのだが、明らかに二人が心を通じあわせていることがよくわかるようになっている。中盤の多幸感はものすごいのだが、それが最後、憂鬱に突き落とされるような破局につながる。

 中年男性の男らしさとアイデンティティを扱った作品としては面白いのだが、かわいいブロマンスを終わらせるやり方としてはかなりショッキングなオチがちょっとご都合主義的なメロドラマっぽい気もする。また、明らかにレスターとサパニの演技力に頼った芝居なので、他の役者でやって完成された作品になるかどうかはわからない。そして思ったのは、前にオールドヴィクがやったアンドルー・スコットのThree Kingsも今は亡き父と息子の関係(しかもイギリス社会ではマイノリティである民族の男性が主役)についての話で、ちょっと似ているということだ(撮影はオールドヴィクよりアルメイダのほうがかなりこなれているが)。新型コロナウイルスが流行っている中で父と息子の関係を見直すみたいな芝居が流行っているのはいったいどういうことなのか、何か世情に関係があるのだろうか…それ以前からあった「男らしさ」を考えるみたいな文芸のトレンドと、外出や旅行ができなくなったせいで家族に会えない人が多くなっていることが重なってそうなっているのだろうか…