次から次へと出てくる家庭問題~NTライヴ『みんな我が子』

 NTライヴでアーサー・ミラーの『みんな我が子』を見てきた。ジェレミー・ヘリン演出で、オールドヴィックで上演されたものだ。初演は1947年で、いかにも第二次世界大戦直後の作品だ。この演目を見るのは初めてである。

www.ntlive.jp

 第二次世界大戦直後のアメリカ、ケラー家が舞台である。ケラー家の父ジョー(ビル・プルマン)と妻ケイト(サリー・フィールド)、息子のクリス(コリン・モーガン)は一見、ご近所付き合いもしっかりしているアメリカの典型的な家庭のように見える…が、実はさまざまな問題を抱えている。最初に提示される大きな問題は息子のラリーの件だ。ケイトは息子のラリーが戦争で行方不明になったことについて、死を受け容れられずにきっといつか生きて帰ってくると信じている。ところが、話が進むにつれて、この家族はさらに大きな問題を抱えていることが明かされ…

 

 大変構成の巧みな芝居で、家族が抱えているふたつの大きな問題が悲劇的に融合するラストはたいしたものだ。戦争で儲けることやあくどい商売をすることの是非が大きなテーマになっていて、第二次世界大戦が舞台とはいってもまるで現在の芝居のようだ。このあたりの倫理観についてはケラー家の中でも大きな意見の食い違いがあり、みんなうすうすは気付いてはいるが口に出さないことが明るみに出るにつれて、事態がどんどん行き詰まっていく。とくに戦争中に工場で儲けたジョーと、従軍して九死に一生を得たクリスの倫理観の隔たりは大きい。

 

 役者陣は皆とても達者で、なんかものすごく「典型的なアメリカのおじちゃま」風なアクセントでしゃべるビル・プルマンと貫禄のサリー・フィールドはもちろん、一時期ゴシップサイトで次のジェームズ・ボンド候補だとか言われていたくらいブリテン諸島的な個性を持ったアイルランド系のコリン・モーガンが完全にこの2人の息子としてアメリカ人っぽく溶け込んでいたのが良かった。あと、セットがとても良い。真ん中に家があって両脇を木が茂った林というか藪というかが覆っているというものなのだが、これがケラー家の立ち位置を非常に象徴的に表現している。木の間を通って両隣から隣人がやって来るという点ではケラー家は外とつながっているのだが、一方でこの林はケラー家をある程度外から保護するというか、ケラー家にとっては見たくないものを遮り、見たいものだけ見せるような役割を果たしていると言える。