特殊効果と冒険~『ブック・オブ・ダスト  美しき野生』

 ナショナル・シアター・ライヴ『ブック・オブ・ダスト  美しき野生』を見た。フィリップ・プルマンの『ライラの冒険』シリーズの前日譚をブライオニー・レイヴリーが脚色し、舞台化したものである。『ライラの冒険』正編も既に舞台化されている(これはアーカイヴで見ようとしたことがあったのだが、あまりにも画質が悪くて断念した)。今回前作と同じくニコラス・ハイトナーが演出をつとめ、ブリッジ・シアターで上演された。

www.youtube.com

 オクスフォードの川の側のパブの息子である少年マルコム(フィリップ・プルマン)と、同じパブで働いている少し年上の少女アリス(エラ・デイカーズ)が、ひょんなことから女子修道院に預けられた赤ちゃんのライラ(正編のヒロイン)を助けるため、カヌー「美しき野生」号に乗って大冒険をする物語である。この作品の世界観では、人間ひとりひとりに動物の姿のダイモンがついているのだが、このダイモンは役者が操るパペットで表現されている。川などはかなり大がかりなプロジェクションで表現している。

 とにかく綺麗でダイナミックなプロジェクションと、生き生き動くパペットが魅力的である。カヌーで川を移動するところなど、船を動かしながらプロジェクションをきちんと合わせて使っており、非常に迫力がある。最後は空まで飛ぶ。特殊効果とか技術系のことに関心がある人は必見の作品だと思う。

 一方でお話は正攻法のファンタジーサスペンスで、子どもたちが冒険を経て大人になっていく様子をストレートに描いている。何度も主人公一行の命が危険にさらされ、そのたびにスリリングな脱出劇があってハラハラするが、最後は心温まる終わり方になっている。小児性愛者の悪役などが出てくるあたりが現代風で、親子関係や男女関係などについてもわりとシビアな描き方をしている。役者陣の演技も良く、主役陣はもちろん、修道女たちのちょっとユーモラスなやりとりなども面白い。原作の要素でカットされてしまったところもけっこうあるのだが、それでも3時間近い長さになってはいるものの、全く飽きずに最後まで楽しめる。