北欧女性芸術家の業績紹介~『魂のまなざし』(試写、ネタバレ注意)

試写 アンティ・ヨキネン監督『魂のまなざし』を見た。フィンランドモダニズム画家であるヘレン・シャルフベックの伝記映画である。

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 かつては都会で絵の勉強をしていたヘレン(ラウラ・ビルン)は、田舎で母親と地味な暮らしをしていた。ところが1915年に画商がヘレンの絵を見出し、ヘレンの絵は一躍、注目されるようになる。ヘレンは絵画愛好家の若いエイナル(ヨハンネス・ホロパイネン)と出会い、好意を抱くようになるが、エイナルは別の女性と婚約してしまう。

 『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』、『TOVE トーベ』、『リンドグレーン』などに続いて日本公開された、北欧の女性芸術家の伝記ものである(この他にマリメッコの創業者を描いた『ファブリックの女王』とかマルクスの娘エリノアを描いた『ミス・マルクス』とかも類似先行作と言えるかもしれない)。ヘレン・シャルフベックはフィンランドでは大変有名な画家だそうで、ヒルマ・アフ・クリントなどに比べると「掘り出す」必要はない芸術家であるようなのだが、私は全く名前を聞いたことがなく、たぶん北欧美術にもモダニズムにも詳しくない人にはあまりよく知られていないのではとも思う。そのへんを意識したのか、フィンランドの人には「みんな知ってるあの人です」、海外の人には「こんな画家がいました」という感じのバランスでわかりやすいように作ってあると思う。

 映像はとても綺麗だし、演技も良い。とくにヘレンは芸術家らしくあまり付き合いやすい感じの人ではなくて、そのへんをそのまんま美化せずに、かつ人間らしく提示している。また、1910年代頃のフィンランドの地方の抑圧的な描写もリアルで、食卓から稼ぎの管理まで、全部男性優位になっていてそれを当然とする社会に対するヘレンの抵抗も描かれている。ヘレンが田舎で隔絶されているようでいて、けっこう頼れる女性の友達もいたりするあたり、バランスがとれている。

 ただ、ここまで北欧の女性芸術家伝記ものを見ていて思うのは、『TOVE トーベ』といい『リンドグレーン』といい、恋愛の比重がやたら大きいということである。『魂のまなざし』に出てくるヘレンのエイナルに対する思いの寄せ方は理想化されていない…というか、かなり年上の女性が若い崇拝者に劇的に惹きつけられてしまう様子をけっこう息苦しく描写している。あまり評価されていなかった女性が突然、自分の芸術の理解者に出会って、雨あられと称賛を受け、そのまんま相手に恋心を抱くようになる様子が、映像は綺麗だがわりと痛々しく描かれている。このへんは現実的な描き方だし、史実にものっとっているようなのだが、わりと他の映画と型が同じだな…という気はした。