音楽の使い方が…『ミス・マルクス』(試写、ネタバレ注意)

 試写でスザンナ・ニッキャレッリ監督『ミス・マルクス』を見てきた。

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 カール・マルクスの娘であるエリノア・マルクスロモーラ・ガライ)をヒロインとする伝記ものである。エリノアは生涯を通して労働条件の改善や性差別撤廃、選挙権のために戦い、またイプセンなどさまざまな翻訳を手掛ける多才で活動的な人物だったのだが、結局自殺してしまう。カール・マルクスのお葬式で始まり、エリノアの自殺で終わる作品である。

 全体的につまらないというわけではないし、主演のガライの演技は大変良いのだが、とくに面白いというわけでもない地味な伝記映画である。エリノア・マルクスの業績に光を当てようというアイディアは良いのだが、父カールの大きな影響の後は不実で頼りないパートナーのエドワード・エイヴリング(パトリック・ケネディ)に振り回されて最後は自殺してしまうということで、男のせいで人生がメチャクチャになってしまう才能豊かな女性の陰鬱な話だ。たしかにこういう話は必要ではあるのだが、『シルヴィア』とかでさんざん見たお話でもあり、あまり新鮮味は無い。オリーヴ・シュライナー(カリーナ・フェルナンデス)との女性同士の友情とか、カールの隠し子だったフレディ(オリヴァー・クリス、舞台『ヤング・マルクス』ではエンゲルス役だった)とのきょうだい付き合いとか、温かみのある場面は良いのだが、それ以外がずいぶんと暗いし、男性中心に回っているという印象を受ける。

 こういう話を少しでも現代風に見せようとしてクラシックとパンクロックを組み合わせているのだが、このセンスもけっこうイマイチだと思う。クラシックについては変に現代風にアレンジしたヴァージョンを使っており、なんでショパンの「幻想即興曲」とか「英雄ポロネース」をあんな変なアレンジで、しかもそんなに場面とも合っていないように見えるところで使うのだろうと不思議に思った。最後の踊るところはイプセンの『人形の家』のノラのダンスへのオマージュなのかも…とも思ったのだが、その後に自殺が来るので全く救われない(途中に『人形の家』にからめてこの終わり方を暗示する場面があり、伏線はしっかりしているのだが)。