書くのが早いと仕事が絶えない~『剣の舞 我が心の旋律』(オンライン試写、ネタバレあり)

 オンライン試写で『剣の舞 我が心の旋律』を見た。ロシア・アルメニアの合作映画で、ハチャトゥリアンの伝記ものである。バレエ『ガイーヌ』の超有名曲である「剣の舞」の作曲過程を描いたものだ。

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 基本的には、一見ソ連に従順で真面目に仕事をしているが実はアルメニア人の誇りを内に秘めたアラム・ハチャトゥリアン(アンバルツム・カバニャン)がバレエ『ガイーヌ』を作っている時に、昔モメたあまり音楽の才能のないお役人プシュコフ(アレクサンドル・クズネツォフ)からひたすら嫌がらせを受けるという内容である。しかしながらハチャトゥリアンは嫌がらせを跳ね返すため、『ガイーヌ』の最後に急遽見栄えのいいダンスを付け加えろという無理な要求に応えてたった8時間で「剣の舞」を書き上げる。

 全体的には1940年代のソ連の、役人が芸術家に嫌がらせをしてくるイヤな雰囲気を雪景色の中で描いた作品…なのだが、あまり盛り上がらないハチャトリアンとプリマバレリーナのロマンスが突如とんでもないセクハラ嫌がらせに突入して自殺者まで出るなど、ちょっとメリハリがないわりに陰鬱すぎる展開になるので、最後があまりスカっとしない。しかも最後の「剣の舞」のところは、これが仕返しだというならもっとバレエを美しく撮らなければならないだろうと思うのだが、イマイチ動きのダイナミックさを生かせていないと思った。バレエの場面は2回あるのだが、1回目の戦場に赴く前の兵士たちにリハーサルを見せるところも、もっと盛り上げ方があるのではという気がした。

 こういうわけで本筋はけっこうイマイチなところもあるのだが、脇でわりと面白いところがある。まず、ハチャトリアンはとにかく真面目に仕事をする作曲家で曲を書くのが早く、そのため無理な要求であっても応えられてしまう…というところはなかなか身につまされるところがあった。しかもちゃんとしたクオリティのものを納期までにあげてくるので、これなら少々役人と衝突してもまあ仕事が絶えないだろうな…と思ってしまった。また、ハチャトゥリアンと弟子のゲオルギーのやりとりは面白いし、途中でハチャトゥリアンショスタコーヴィチオイストラフが飲み会と演奏をするなどというサービスカットかというような場面がある。