揺れるのはおっぱいとお尻だけで十分だよ!〜ギャリック座、バーレスクショー「ハーリー・バーリー・ショウ」(The Hurly Burly Show)

 ギャリック座でミス・ポリー・レイとハーリー・バーリー・ガールズによるバーレスクレビュー「ハーリー・バーリー・ショウ」を見てきた。いつも映像で見るばかりだし、この間のディータ・フォン・ティーズは展示場だったので、ちゃんとしたハコでバーレスクレビューを見るのは初めて。


 劇場チラシ。お子様お断りです。


 ミス・ポリー・レイ&ハーリー・バーリー・ガールズはイギリスで大変人気のあるネオバーレスクのパフォーマンス集団。ミス・ポリーは踊るだけじゃなく歌も歌う。そんなにすごく上手いとは思わなかったのだが、声がまるっきり50〜60年代のグラマーガールみたいで非常に雰囲気がある。


 開演前の舞台。チープでキャンプな感じでいいですなぁ。

 上演時間は1時間40分で、豪華なセットを使って行う派手なバーレスクルーティンをいくつかやる一方、合間に舞台の前方(カーテンの前)だけを使ってやるちょっとしたルーティンやミュージシャン(これは男性)の歌をはさむといった感じ。日曜の五時からの公演だったのでお客さんは少なかったが、客の半分は女性(たぶん男性の何割かはゲイ)で、うちの前の席なんか老夫婦だった。ネオバーレスクは少なくともロンドンでは完全に健康的で下品とか差別的とかでもない大人向けの演芸として扱われている感じだなー。


 ルーティンの内容はセクシーで超キャンプで、おそろしく陳腐なものをあまりにもわざとらしく意図的に出してくるので思わず爆笑しちゃうようなものばっかり(もちろんそういう効果を狙ってわざとやっている)。最初のルーティンはミス・ポリーが罪深い女子修道院長に扮して、ペット・ショップ・ボーイズの'It's a Sin'を歌いながらローマ法王の写真を引き裂いたり(!)尼僧たちと踊り狂うというまるでナンズプロイテーション映画のパロディみたいなもの。そのあとも女学校の先生に扮したミス・ポリーが'Baby One More Time'を歌いながらフザけた女子生徒を折檻するとか、あまりにも陳腐でアホっぽい設定をとことんわざとらしく再現してみせる。後半はマリー・アントワネットがギロチンにかけられるまでとか、西部劇のパブで銃を乱射するカウガール、ニセ東洋セットでの傘を回すダンスなど。あと、ミス・ポリーが歌いながらバーレスクとはどういう芸術なのかお客さんに教えるシークエンスもあるのだが、ここではお客さん(男も女も!)を客席で全員立たせてどうやっておっぱいを揺らす(shimmy)かとか腰を回すかとか(bump and grind)についての講習(?!)もあり(うちもやってみたけどおっぱいを揺らすのは超むずかしいよ!大きさよりも動きにコツがあるようで…しかし見本でダンサーが全員でやったshimmyはえらいキレイでした)。

 全体として、けっこうブラックユーモアが多いんだなぁと思った。法王の写真を引き裂くとか、ギロチンで処刑されちゃうマリー・アントワネットとか(これは処刑人の役がアフリカンのダンサーで、黒→死という陳腐であからさまに差別的なイメージをギリギリのとこでパロディ化してる感じだった)、殺人カウガールとか、割合風刺的で辛辣な雰囲気のダンスが多い。あとポピュラーカルチャーの取り入れ方とかが絶妙で、「ああこれはこの映画のパロティね」とか、「ここのその曲がくるか」とか、そういうくすぐりが大量に含まれている。もちろんまるっきり陽気なものもたくさんあるし、バレエのような振り付けで火のついた松明を振り回すダンスとか、バランスボーの上にのっかってオリビア・ニュートン・ジョンの「フィジカル」にあわせて体育みたいな踊りをするシークエンスとか、単純に振り付けが面白いなと思えるものもたくさんあった。

 …しかし、「ハーリー・バーリー・ショウ」を見て、バーレスクというのは実にふしぎな芸術だと思ったなぁ…マイケル・ビリントンがレビューで「女性をおとしめていると言う人もいるかもしれないが、男性ストリップもふつうに上演されるようになっている世の中ではそのような主張をするのは困難」と言っているが、一見「女性をおとしめている」ようで実は周到なパロディとおふざけに取り巻かれているためそうなってないというあたりが実に不思議だし、間違いなくかなりの部分女性の客を想定している。ただ、前のディータのルーティンでもわざとらしいオリエンタリズムが用いられていたしこの公演もそうだったのだが、いったいああいうのはどこまでが本気でどこまでがパロディなのか、ちょっともうちょっとたくさん公演数を見て考えないとわからんなぁ…