映画ゼロ年代ベストテン

 さて、予告していたとおり、「男の魂に火をつけろ!」破壊屋さんのゼロ年代映画ベスト10に投票することにした。


ベスト映画:順不同(順位なし)  

○どういうわけだか二本とも不倫もの、恋愛映画編
・『花様年華』(In the Mood for Love)、ウォン・カーウァイ監督、2000

 高校生の時に旭川の映画館に放課後一人で行って見たのだが、これが映画館で初めて見たウォン・カーウァイ映画だった(旭川は田舎なので、私があこがれていたウォン・カーウァイの映画とかはなかなか映画館でかからなかったのである)。初めて大画面で見たウォン・カーウァイの映像があまりに鮮やかで、ガキだったもんでお話は完全に理解できたか自信なかったんだけどすごく感動して、ポスター(上の写真。マギー・チャンの美しい足を全面的にフィーチャーしてるやつ)とサウンドトラック(古いラテンポップスと中国語の歌謡曲が中心)を少ない小遣いはたいて買って帰った。

 で、両親にこのサウンドトラックを聴かせてみたところ二人とも大変気に入って、車で聴くコピーを作るためにパソコン室にCDを置いておいた…ところ、なんとりんご(うちの犬)がCDを食べてしまった(ただし、データをパソコンに取り込んだ後だったので、音楽自体は消失せずにすんだ)。それ以来、私はコピーコントロールに絶対反対である。

 ポスターのほうはすごく気に入って東京まで持ってきて部屋に貼っていたんだけど、どういうわけだか歴代の交際相手さんたちは、趣味にかかわりなく(映画の専門家からスポーツ選手まで)みんなこのポスターをえらく気に入っていた。マギー・チャンの足の力は万能らしい。

 ナット・キング・コールが歌うラテンポップスが何曲か使用されているのだが、下のクリップは一番印象的に使われていた"Quizas"に映像をあわせたもの。

 


・『ブロークバック・マウンテンアン・リー監督、2005

 「世間に背いた恋」を扱うすっごく伝統的なフツーの恋愛映画(というか姦通映画)だと思うのだが、悲恋ものとしてあまりにもよく出来ている上、ところどころに全部見終わってもすらりとは解けないようなちいさい心理の謎がいっぱい仕込まれていて、何度見ても考えさせられる映画だと思う。ラストシーンはよく考えるとすごく怖いと思うのだが、あれは永遠に続く愛なんかやっぱりないんだけど、それでも人は愛にしがみつきたがるんだということなんじゃないかと思う。

 あと、主演二人のビジュアルと芝居がいいというのももちろん大事。ジェイク・ギレンホールのアグレッシブな色気と、ヒース・レジャーの寡黙なカウボーイっぷりがとてもよくはまっていて、ラブシーンも大変美しく撮れている。



ゼロ年代のガールパワー
・『ゴーストワールドテリー・ツワイゴフ監督、2001

 …ガールパワーでいきなりこれかよって感じなのだが、一回見てなんかすごいショックで、もう一回見たいのだがなかなか見る勇気が起きない。おすぎがおっしゃっておられたが、この映画のメッセージは、とにかくブスは街を出ろ!ということである(ほんとか…?でもそのメッセージに従ったヤツがここに約一名…)。


・『ムーラン・ルージュバズ・ラーマン監督、2001

 えーっ、実はこれはすごい暗い映画だと思うのである。この映画は全部クリスチャン(ユアン・マクレガー)の回想の形式になっていて、最愛の人サティーン(ニコール・キッドマン)に先立たれて酒浸りになりながら昔のことを書いてるクリスチャンの姿がうつるとこから始まる。たぶんこの映画のメッセージは、後でどんなにつらい目にあうとしてもとりあえずその時正しいと思ったことをやってみろというおそろしくポジティヴなものなんじゃないのかな…そういう点では『花様年華』(というか『ブエノスアイレス』か)に近いかも。

 で、この映画のいいところはとにかく全編不自然なところである。バズ・ラーマンはもともオペラの人なのでリアリスティックに撮ろうとか全然思ってないのだが、映画全体があまりにもカンペキに様式美の世界にはめこまれちゃってるおかげで、登場人物の感情がある種理想化された形でギュっと抽出されて(つまり、本来ならありえないようなヴィヴィッドさをもって)客に提示されている感じがする。クリスチャンとサティーンのデュエットなんか、選曲もものすごく考え抜かれていて、そこらへんの写実主義指向の恋愛ものよりもはるかに「リアル」に人が恋に落ちる瞬間のドラマティックさを示しているような気がする。



・『キューティ・ブロンドロバート・ルケティック、2001

 元気がほしい時に見る映画。西海岸の一見バカっぽいブロンド娘エル(リース・ウィザースプーン)が、「もっとマジメそうな女と結婚しないと出世できない」という理由で自分を捨てたボーイフレンドを追ってハーバードのロースクールに入学。黒っぽい服を着てマジメそうに振る舞う周りの連中を尻目に、まっピンクのファッションに犬まで連れて徹底的に「自分らしい」やり方で戦い、元ボーイフレンドの現在の彼女(ブルネットの優等生)や法学部の教授といったマジメな女連中とも友情をはぐくみ、優秀な弁護士として法廷で成功をおさめるというお話。私が赤っぽい服ばかり着ているのはかなりこの映画に影響されているところもある。

 有名な"Bend and Snap"シーン。なお、私はこれを実行したことはありません。



・『オール・アバウト・マイ・マザー』ペドロ・アルモドバル監督、2000

 ペドロ・アルモドバルなら『ボルベール』もとても好きなのだが、複雑なテーマとたくさんの登場人物をうまく処理しているという点ではこっちかなと思う。女ばっかり出てくるストーリーはカトリック的な分離派フェミニズムを感じさせるのだが、誰が女か、女とは何か、という点についてはすごく含みを持たせているのがポイント。ドジだけど優しい不幸な修道女ロサ役のペネロペ・クルスも可愛いし、トランスジェンダーのアグラードを演じたアントニア・サン・フアン(ちなみに女優)も芸達者だし、見ていてとても優しい気持ちになれる作品。



ゼロ年代のロック映画はこれだ!
・『スクール・オブ・ロックリチャード・リンクレイター監督、2003年

 2003年の5月1日、ゴールデンウィーク最中のものすごく込んでいる新宿の映画館に一人で出かけていって、席がなかったもんで映画館の床に座って見たのだが、床に座ってることなんか忘れちゃうくらい面白かった。ロックに対する愛情がひしひしと伝わってくる素晴らしいコメディだし、ジャック・ブラックの至芸が発揮された作品で、いつ見ても元気出る。あと、照明とかマネージャーを担当する子供が結構ちゃんと描かれていて、よく考えるとこれは「ロックというのは演奏者だけで成り立っているものではない」という、裏方に敬意を表する内容にもなっているところがいいかなという気がする。


・『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチジョン・キャメロン・ミッチェル、2001

 えーっ、これについては論文まで書いているくらい好きなので、もう言うことナシ。



○ウソの重要性について考える映画編
・『ビッグ・フィッシュティム・バートン、2003年

 これ、ティム・バートンのファンにはあまり受けがよくないみたいなんだけど、たぶんこの映画はティム・バートンが「自分の創作態度」みたいなものを一番素直に表明した作品なんだろうと思う。一応、この映画は父と子の和解がテーマなのだが、ティム・バートンはどっちかというと息子より父の立場で、息子を観客に見立てて自分の映画に対する愛とは何なのかについて伝えようとしているんじゃないか…という気がする(ちなみに私は完全に父に感情移入して見てしまった)。で、この映画において観客に伝えられるべきメッセージというのは「よくできたウソをつくことが芸術の神髄である」ということだと思うのだが(オスカー・ワイルドの「嘘の衰退」と同じことを主張しているわけである)、このテーマが教条的にならずにすごく豊富なヴィジョンで色づけされて描かれているので、全然鼻につくようなところがなかった。同じテーマの『ライフ・イズ・ビューティフル』とかに比べてはるかにとっつきやすい気がする。 


・『エターナル・サンシャインミシェル・ゴンドリー監督、2005

 こんだけしっちゃかめっちゃかなホラをふいて、最後ものすごく切ない恋愛ものにきちんと落とし込むところがスゴいと思う。ジム・キャリーケイト・ウィンスレットがすごく役にハマっていて、息もぴったり。なんというか、人間は何度生きても同じ過ちを繰り返す…という救いようのない話である気もするのだが、それでも後味がものすごくポジティヴなのが素晴らしい。
 
 ミシェル・ゴンドリーの映画はあまり説明するとネタバレになって面白くないので、予告編をどうぞ↓




 …えーっ、ゼロ年代ベスト10を選んでみて、全体としてとにかく私は恋愛映画の解釈が暗いらしいということがわかった。たいていの映画から、「あとで後悔することになってもいいからやってみろ」という無駄にポジティヴで失敗まっしぐらなメッセージを受け取っているらしい。
 あと、『ザ・フー:ライヴ・アット・キルバーン』とか『メタル:ヘッドバンガーズ・ジャーニー』とかのロックドキュメンタリーをベスト10に入れられなかったのが悔しいところだった。他にも『アメリ』とか『マグノリア』を入れたかったけど、入らなかった…




 さて、お次はベストよりはるかに気合いが入っており、皆さんも私の悪口雑言に期待しているであろうワースト部門。

ワースト映画(順位あり)

1. 『ダンサー・イン・ザ・ダーク [DVD]
 これは高校生の時に女友達と見に行ったのだが、ゼロ年代ブッちぎりでムカつく最低の駄作であった。ラース・フォン・トリアー監督が主演のビョークをスクリーン上であまり現実的とはいえない状況に陥れ(これでもか、これでもかと不幸を見舞わせる)、ひたすら虐待し続けるというトンデモない作品。監督の変態的な女性虐待趣味が一見「女性向け」なメロドラマっぽい設定の下で全開するので、実にいやらしいと思う(どうしても客を自分の変態趣味につきあわせたいというなら、ヒッチコック見て出直してこい!あれぐらい洗練されていればまあ許してやる)。ビョークの演技と歌でなんとか見れたようなもんで、そうでなかったら途中で激怒して映画館を出てたかも。

 あと、私は基本的にドグマ95の「リアリスティックな」手持ち撮影スタイルが大変苦手で、見ていると酔って気持ち悪くなるので、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』ではそれが個人的に気に入らなかったというのもある。別に手持ちがダメだとは思わないのだが、体質的にあわないだけじゃなくスタイルの点でも私は手持ちはあまり好きじゃない。映画というのはリアリスティックでありすぎてはいけないという気がするので(リアリスティックに撮ったからといって観客が映像をリアルに感じられるとはかぎらない)、静止しているがっちりしたフィクションの「枠」の中に画面を納めることができない手持ち撮影は映画のフィクション度を下げている気がして私はあまり面白いと思わないないのである。



2. 『ラスト、コーション
 いつもはきちんとした「女性向け」映画を撮るアン・リーがこんなひどい映画を撮ったのが本当に不思議。世間知らずのウブな女が仕事のつもりでDV男に近づいて相手にハマって仕事を忘れて変死というくだらんストーリーなのだが、自覚があって女性虐待話を撮っているであろうラース・フォン・トリアーに比べて、アン・リーは天然で「男女関係についてきちんと描こう!」と気合い入れてやってそうなところが余計始末が悪いかも。『愛の嵐』くらい倒錯度が突き抜けていればもっとマシな映画になったのかもしれないが、ちゃんとした恋愛ものになっちゃってるぶん話のくだらなさが際立った感じ。



3. 『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女
 アメリカの帝国主義・性差別・民族差別・キリスト教中心主義がいかんなく発揮されまくったお子様向け映画。雄ライオンと人間の子供たち率いるナルニア軍があきらかに白人のキリスト教徒の軍隊を模しているのに対して、魔女率いる荒ぶる野生動物軍団はどう見ても女と非白人の軍隊で、なんと前者があっさり勝利するという21世紀の作品とは思えない差別的な内容。サパティスタ民族解放軍パレスチナ自爆テロについて考えたことのある心優しい人なら誰でも魔女とシロクマ連合軍を応援したくなるはずであるが、そのわりには魔女が弱すぎて応援しがいがない。

 あと、劇中でどう見ても好色な獣人(フォーン)が女の子を自分の家に連れて行く場面があるのだが、フォーンは別にいい人だったとわかる。一方、魔女が男の子をお菓子で誘惑して家に連れて行くとこもあるのだが、魔女はあとで悪い人だったとわかる。このあたりは男性→女児に対する性的誘惑をたいしたことないものとして退けているくせに女性→男児に対する性的誘惑は危険なものとして描かれるという、なんかものすごい変わったジェンダー非対称があるように感じた。普通は逆で、「女性→男児」が無害、「男性→女児」が有害というふうに描かれることが多く、これはこれで問題ある気がするのだが、この映画では徹底して「誘惑する女が悪い。男は良い」になっており、ペドフィリアすら忘れられちゃうくらい徹底して性差別的である。いや、こんな映画本当に子供に見せていいのか?



4. 『スラムドッグ$ミリオネア
 手垢のついた「お姫様救出」ものをオリエンタリズムの色合いでくるんで出しただけのやっすい映画。テレビの力とか、インドの経済成長とか、フレッシュで芝居もできる若い役者とか、いろいろ新機軸を持ち込んでいるわりには作りが雑で、イマイチオリジナリティとか映画的な説得力というものが感じられないアカデミー賞受賞作。

 全体的にインドの文化、とくにインドの女性をバカにしている感じがするのがよくないところで、弱々しくて頭も悪そうなヒロイン(女優さんが頑張っているからまともに見えるだけで、あの人格は映画の登場人物としてはかなり魅力がないと思う)がダメダメ。また、主人公の兄貴がヒロインに性暴力をふるう(ほのめかされるだけだが)のに弟がそれをあまり気にしていないところも問題。
 


5. 『LOVERS』(2004年、チャン・イーモウ監督作)
 何がしたかったんだかさっぱりわからんアクション映画。伏線全くナシで裏切りやら陰謀やらがいっぱい出てくる出来の悪いB級映画のような筋を、A級の監督・撮影・キャスト・予算で撮ったもの。チャン・ツィイーは相変わらずお美しいのだが、前年の『武士 MUSA』とか同年の『2046』のほうがずっと魅力的だし役柄にハマっていた。もっと役柄を選んだほうがいいと思う。


6. 『ゲド戦記
 あんだけ面白い小説をこれだけつまらん映画にできたのがびっくり。ナルニアと同様、魔女が最後にボコボコにやられるくせに人殺しをした王子様はどーってことなく救済されるという筋書きはとっても性差別的。単なる勧善懲悪話を見たいなら、水戸黄門を見たほうがたぶんマシ。

 …ちなみに、ナルニアは原作自体かなり差別的でキリスト教中心主義的なところがあるからしょうがないと思うのだが、『ゲド戦記』や『ライラの冒険』みたいなかなり複雑な話を映画化してもつまんない勧善懲悪ものになっちゃうのは、やっぱり最近はアメリカでも日本でも脚本家が枯渇しているのかな…と思う。
 


7. 『クローサー』(2004年、マイク・ニコルズ監督作)
 基本的には『ラスト、コーション』と同じで、まともな男(ジュード・ロウ)とくっつきかけたダメ女(ジュリア・ロバーツ)がロクでもない前夫(クライヴ・オーウェン)に迫られてずるずると復縁してしまうという、女性の不幸を楽しんでいるとしか思えないストーリーをなんとなくオシャレに描いたどうしようもない映画。

 で、この映画ではストリッパー役のナタリー・ポートマンの芝居は素晴らしいと思うのだが(これは脚本とかよりもポートマンの力だと思う)、ダメ妻役のジュリア・ロバーツは演技以前にキャラクターが全然ダメだと思う(最後なんで前夫のとこに戻るのか全く意味不明)。しかし、教養はないけどセクシーでいい女(ナタリー・ポートマン)と、教養はあるけど私生活がボロボロの女(ジュリア・ロバーツ)っていう対比のある映画は全くもう目にタコができるほど見たので、たいがいにしろと思う。


8. 『ギミー・ヘブン
 共感覚への偏見と誤解に充ち満ちた作品で、共感覚者は激怒必至。江口洋介宮崎あおいはとても頑張っているのだが、いかんせん脚本が差別的すぎて…いいかげん、遺伝的問題や精神疾患を搾取して映画を作るのはやめるべきだ(全ての表象は搾取だとか言って逃げようと思ったってそうはいかんぞ)。


9. 『ダイアナの選択
 なんなわけ、あのオチは?


10. 『猟奇的な彼女
 そこまでひどいわけではなかったのだが、予告編を見てものすごくイカれた女が出てくる爆笑ぶっとびコメディなのかと思っていったら、なんか普通の切ない恋愛ものだった!しかも彼女が全然猟奇的じゃなかったので(「あれで猟奇的ならさえぼーさんは大量破壊兵器ですよ」と言われた)、看板に偽りありである。




番外編:ゼロ年代個別賞
監督賞…ペドロ・アルモドバル
脚本賞チャーリー・カウフマン
男優賞…ガエル・ガルシア・ベルナル
女優賞…ペネロペ・クルス
女装賞…ガエル・ガルシア・ベルナル(『バッド・エデュケーション』)

       キリアン・マーフィ(『プルートで朝食を』)

男装賞…ドリュー・バリモア&キャメロン・ディアス(『チャーリーズ・エンジェル』)

    アマンダ・バインズ(『アメリカン・ピーチパイ』)

ミュージカル場面賞…"Let's Do It" by アラニス・モリセット(『五線譜のラブレター』)

          "With a Little Help with My Friends" by ジョン・スタージェス&ジョー・アンダーソン(『アクロス・ザ・ユニバース』)

ダンス賞…"The Rockafeller Skank" in『シーズ・オール・ザット』

ホモソーシャル賞…ラッセル・クロウ(『マスター&コマンダー』、『グラディエーター』、『アメリカン・ギャングスター』)