ハムレットが『スター・ウォーズ』に出てる!~『DUNE/デューン 砂の惑星』(ネタバレあり)

 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『DUNE/デューン 砂の惑星』を見た。フランク・ハーバートによる原作があるのだが、ホドロフスキーによる実現しなかった映画化計画あり(経過は『ホドロフスキーのDUNE』というドキュメンタリーになっている)、デヴィッド・リンチによるいわくつきの映画化(編集権などのトラブルでアラン・スミシー名義の版が出回っていたりする)あり、ドラマあり、これまで何度か映像化の試みがあったものである。大変スケールが大きく、長い話で、こちらの映画化は第一作の半分くらいを扱っている。

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 未来の宇宙帝国が舞台である。名門アトレイデス家とハルコンネン家は長年対立していたが、ハルコンネン家は非常に高価なスパイスの産地である砂漠の惑星アラキスの採掘と交易からくる財力で力をつけていた。ところが皇帝の命でアトレイデス家がアラキスに赴任することになる。アトレイデス公爵家の御曹司であるポール(ティモシー・シャラメ)は、父である当主レト(オスカー・アイザック)と、秘密結社ベネ・ゲゼリットで修行した優秀な道女である母ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)とアラキスに引っ越す。ところがアラキスは陰謀だらけで、ハルコンネン家がアトレイデス一家を皆殺しにするべく画策しており、クーデターでレトが暗殺されてしまう。ジェシカとポールはいろいろな人々からの助けを受けて間一髪で砂漠に逃げ、そこで砂漠の民フレメンと出会う。

 個人的にはお話もヴィジュアルスタイルも大変に好みである。まずは『スター・ウォーズ』にも影響を与えたという壮大な宇宙絵巻で、私が嫌いなわけがない。さらに父を殺され、不当に地位を奪われた貴公子を中心に展開する「王座をめぐる壮大な芝居」(『マクベス』第1幕第3場128-129)で、ほとんど『ハムレット』みたいなもんだ。その上、主演がシャラメである。線が細く優雅なシャラメはまるで「私が考えるハムレット」そのもので、『スター・ウォーズ』に突然、わが理想のハムレットが現れたみたいな錯覚に陥って、好きな要素てんこもりで途中からあんまり冷静に見られなくなってしまった(シャラメを主演に『ハムレット』の映画を作るべきだと思う)。砂漠のヴィジュアルなども『アラビアのロレンス』を思わせる壮大さだし、建造物などもけっこう凝っていて、見ていて楽しい。他のキャストも大変魅力的で、相変わらず魔女が似合うレベッカ・ファーガソンもいいし、砂漠の女チャニ(ゼンデイヤ)は出番が少ないのに堂々たる存在感だし、非常にいいキャラだったダンカン・アイダホ(ジェイソン・モモア)はもっとたくさん見たいと思った。

 そういうわけで個人的にツボだと思うところがたくさんあったのだが、そうは言ってもこういうテイストの映画があわない人は徹底的にあわないのでは…というところもけっこうあるし、また欠点もけっこうあると思う。複雑で壮大な原作を端折っているのでたぶん原作未読だったり、この手のSF大河みたいな物語に慣れていなかったりする人にはわかりづらいかもしれないし、原作ではかなり描きこまれていたところがサラっと流されていて物足りないということもある。また、これはヴィルヌーヴの作家性なのかもしれないが、じっくり描きたいところはヨーロッパのアート映画みたいなぬぼーっとした撮り方をしており、さらにポールの意識に入ってくるフラッシュフォワードがやたらにしつこいので、SF超大作にしてはペース配分がおかしいような気もする。アクションは全体的にパッとしない感じで、とくに宮殿での戦いはもうちょっとわかりやすく撮ってもいいのではと思った。

 一番ひっかかるのが、全体的に『アラビアのロレンス』っぽい白人酋長ものの気配があるところである。とくにこの作品ではフレメンがけっこう多様な感じの民族になっているのだが、そこにやってくるヒーローがシャラメ(ユダヤ系である)であるせいで、救済を待つ砂漠の民のところに輝くばかりに美しいユダヤ人の救世主が来臨するという、なんだか宗教的にも政治的にも微妙な内容になっている気がする。イスラエル支持者とか、キリスト教原理主義者とかに好かれそうだなーとは思った。

 さらにこれも『アラビアのロレンス』の影響ではないかと思うのだが、本作はかなり男性のいろんな身体をフェティッシュ化することにこだわっている気がする。ポール役のシャラメは着替えをしたり悲しんだり砂まみれになったりするところをやたらとじっくり撮られている(もともとシャラメはものすごくフェティッシュ的な撮り方を誘発する俳優というか、美男である上に感情表現が絵になるのでシャラメの身体と感情じたいをスペクタクルにするみたいな撮り方がどの映画でもけっこうあるのだが)。シャラメだけでなく、モモア演じるダンカンは戦闘前にストリッパーみたいなやり方で指を一本一本引っ張りながら手袋を脱いでいるし、オスカー・アイザックはなぜか裸で出てくるなど、男性はだいたい露出度が妙に高かったり、変なところをしつこく写していたり、全体的にえらく綺麗に撮られている。このあたりも好みが分かれそうだと思う。