まるで90年代の映画のような…『ボーンズ アンド オール』

 ルカ・グァダニーノ監督の『ボーンズ アンド オール』を見てきた(なんで日本語タイトルは単語の間に変な半角スペースが入るようにしたんだろう?個人的には食人描写よりもこっちのほうが気持ち悪いのでやめてほしい)。

www.youtube.com

 舞台は80年代のアメリカ合衆国である。18歳のマレン(テイラー・ラッセル)は子どもの頃から人肉に対する渇望を抑えられず、トラブルを起こすたびに父親(アンドレホランド)と転居してきたが、ある日父親が愛想を尽かして出て行ってしまう。マレンは出生証明書を頼りに母親を探す旅に出るが、途中で同族だという不審な男サリー(マーク・ライランス)に会う。サリーを置いて出て行ってマレンはやはり同族である同年代の青年リー(ティモシー・シャラメ)に会い、2人で母親を探す旅に出る。

 食人ホラーで見た目はショッキングだが、最近ではちょっとあまり見かけないくらいロマンティックな恋愛ものである。若者2人の人肉への渇望は、若者たちの世間に馴染めない苦悩、社会からの隔絶みたいなもの一般を象徴しており、マレンとリーはけっこう感情移入できるキャラクターに描かれている一方で、途中で2人が出会う大人の同族はみんな問題があって信用できない感じの人間ばかりだ(信用できる成人のメンターというのが存在しない)。食人が同性愛だけを象徴しているわけではなく、若者の多種多様な孤独感を象徴してはいるのだが、一方で本作はグァダニーノがやはりシャラメと組んだ『君の名前で僕を呼んで』同様、けっこうクィアな作品である。そのものずばり、リーが男性を誘惑してセックスの途中で殺して食べようとする場面もあるし、マレンとリーがいわゆる「普通の」人間らしく家庭を持って暮らすことができないと悩んでいたり、同族だと称して怪しい大人が搾取目的で近づいてきたりするあたり、同性愛を連想しやすい描き方になっている。なお、本作の食人描写はけっこう残酷だが、それよりもただ突っ立っているだけのマーク・ライランスのほうが怖い。

 全体として、撮り方がまるで90年代の映画みたいである。舞台は80年代だし、音楽はデュラン・デュランとかキッスとかが使われていてけっこうちゃんと時代劇らしい作りなのだが、スタイルは『マイ・プライベート・アイダホ』などを思わせる。ただ、グァダニーノの映像はちょっとざらざらしグランジスタイルのガス・ヴァン・サントに比べると圧倒的にグラマラスで(ちょっとトム・フォードに近い)、食人場面と対照的に日常で食べるものを色っぽく撮っているし、またティモシー・シャラメがどれくらい膝を出した服を着るかとかにえらいこだわった撮り方をしている。出会ったばかりのアレンとリーがダイナーみたいなところで食事をする場面は、明るい光があたる食べ物の色合いに対して、若く美しくこれから人生を変える恋に落ちる2人の顔の半分が暗めの陰になっており、コントラストが際立っていて、アメリカの田舎の飲食店なのにまるでマニエリスム絵画みたいである。