人間らしい尊厳の回復~『パメラ・アンダーソン、ラブ・ストーリー』

 Netflixで『パメラ・アンダーソンラブ・ストーリー』を見た。ライアン・ホワイト監督による、パメラ・アンダーソンのこれまでの人生とキャリアに関するドキュメンタリーである。

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 私はパメラ・アンダーソンが出た映像作品をたぶん1本も見たことがないのだが、あまりパメラ・アンダーソンのことを知らない人にもよくわかる、大変よくできたドキュメンタリーである。パメラはカナダの小さな町レディスミスに生まれ、ひょんなことから注目されてプレイメイトとなり、『ベイウォッチ』の出演者として90年代アメリカのセックスシンボルとなったが、最初の夫であるモトリー・クルーのトミー・リーとのセックステープが盗まれて流出してしまう。ドキュメンタリーの主な主題は、このセックステープ流出により、メディアによる凄まじい嘲笑やからかいの対象となったパメラの尊厳を取り戻し、ひとりの人間としてのパメラの主体的な姿を浮かびあがらせることである。

 監督によるパメラへのインタビューや、パメラがつけていた日記の朗読、パメラのホームビデオなどを中心に構成した作品である。お化粧もせず、普段着のパメラがわりとリラックスした感じでいろいろな話をする映像にホームビデオが組み合わされ、非常に親密感がある。ホームビデオは夫や子どもを撮ったなごやかなものが多くてだいたいは微笑ましいのだが、こういうふうに何でもビデオで撮っておこうとしていたことがセックステープ流出につながったのだと考えると実にいたたまれない気持ちにもなる。

 パメラは小さい頃からとても可愛らしい女の子だったのだが、ベビーシッターに性的虐待を受けたり、少女時代に年上の男性からレイプされるなど、何度か悪質な暴力のターゲットになっていたらしい。大人になってからは美貌であっという間にグラマーモデル、女優として有名になるが、その時もテレビ番組で胸のことをからかわれるなど、身体だけのモノみたいに扱われていた。セックステープ流出の後はメディアのミソジニーを目の当たりにする…というか、パメラ本人が的確に分析しているように、男性でワイルドなロックスターであるトミーについてはセックステープ流出は非常に不幸だったとはいえそこまで致命的なダメージにはならなかったが、セックスシンボル扱いされていた女性のパメラのキャリアと人生には取り返しがつかないほどの大きな影響があり、徹底的にからかいの対象にされ、何をしても真面目に受け取ってもらえないような状態がしばらく続くことになってしまった。パメラはもともとしっかりした人だったので自分がどういう状況に置かれているのかよく理解しており、自分の悪名をアクティヴィズムに使うなど、強いメンタルでこれを乗り越えてきたが、一方でこの流出問題に関するメディアの扱いは性差別と人をおもちゃにするような悪意に満ちたもので、全く許されることではないと思う。

 本作は「ラブ・ストーリー」というタイトルがついているだけあって、パメラの恋愛や家庭生活についても焦点をあてている。恋愛や家族についての箇所では、プライバシーをおもちゃにするのとは正反対の真面目なやり方でパメラをひとりの女性として提示しようとしている。パメラは結婚と離婚を繰り返していたが、これは本人がかなり情熱的な性格だからで、結婚が失敗した時にはスモーキー・ロビンソンからも「君はロマンティックな人なんだよ」みたいなことを言われて励まされたらしい。一方でパメラは最初の夫であるトミーとの間に生まれた2人の息子に対しては非常に良いお母さんで、子どもたちとの関係も良好だ。ドラマの『パム&トミー』が出た時、パメラはブロードウェイで『シカゴ』に出るためのリハーサル中で家を離れていたのだが、息子が電話をかけてきて、ドラマがあまり両親のプライバシーを尊重していないので見ないほうがいいというような心配を伝えるところがある。この場面はセックステープ流出のせいでパメラと息子たちが既に克服したはずの傷を再度開かれているみたいな感じで、けっこう悲しくショッキングなだ。

 最近はパメラ・アンダーソンだけではなく、ブリトニー・スピアーズなど、メディアの性差別的な嘲笑の対象になった女性セレブリティの名誉回復を行う動きがあるが、このドキュメンタリーはそうした潮流の中で作られたものとしてはかなり完成度が高いと思う。本作のパメラはしっかりしていて勤勉で、尊敬に値する大人の女性だし、とてもチャーミングだ。ただ、都合の悪いこと(プーチン周りのパメラの活動とか)についてはサラっと触れるかほぼ言及しておらず、そのへんはパメラに同情的な分、偏りもある(監督のライアン・ホワイトはオープンリーゲイでパメラのファンであり、パメラは北米のゲイにかなり人気があるらしいので、ちょっとファン視点の作品なのだと思う)。そこはちょっと割り引くとしても、非常に力の入った真剣なドキュメンタリーだと思った。