祖先を発見する~『オマージュ』(試写、ネタバレ注意)

 シン・スウォン監督『オマージュ』を試写で見た。

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 中年の女性映画監督ジワン(イ・ジョンウン)は、新作が全く当たらず、仕事はスランプ気味で、家庭生活も煮詰まっている。そんなジワンのところに、音声が途中から欠落している映画『女判事』の修復の仕事が来る。『女判事』は60年代のパイオニア的な女性映画監督で3作しか映画を撮らなかったホン・ジェウォンの作品で、最近発見されたフィルムを記念上映用に修復する必要があった。ジワンは『女判事』についての情報を集めるべく、調査を開始する。

 このところ『エンドロールのつづき』、『バビロン』、『エンパイア・オブ・ライト』など、過去の映画に関するノスタルジアに満ちた映画がけっこう作られているが、私の個人的な趣味ではこの『オマージュ』がダントツに面白い。監督の半自伝的な要素がある作品だそうで、監督自身が韓国の最初の女性映画監督についてドキュメンタリーを撮ったことがあり、ホン・ウノンという監督が撮った『女判事』という映画も実在するそうだ(名前が変えてあることからもわかるように、基本的にはフィクションになっている)。地味な映画だが、少しずつ調査を進めていくうちにだんだんホン・ジェウォンの『女判事』に関する情報がわかり、過去の映画人との出会いや偶然の発見を通して、すっかりスランプに陥っていたジワンと、その先達である苦労していた韓国映画界の女性パイオニアたちがつながっていく様子がユーモアやちょっとしたホラー要素も交えて描かれている。私生活でも映画界でも女性だということで苦労しているジウンにとって、『女判事』の修復は言ってみれば自分の祖先を発見するプロセスだ。この作業の中で、ホン・ウノンような人がいたから今の自分があるということが身にしみて感じられるようになる一方、実は映画界の性差別があまり60年代に比べて改善しているわけでもないということも明らかになってくる。かつて映画編集を仕事をしていたイ・オッキ(イ・ジュシル)が、高齢で相当に体調が悪いのにもかかわらず、最後、ジワンがひょんなことから見つけたフィルムを見た途端に過去の編集魂を発揮して頑張り始めるところは、女性同士の連帯と映画愛の両方がよく表現された、静かだが温かい場面だ。

 また、ジウンが映画監督だという以外はどこにでもいるような近所のおばちゃまで、美人でもスーパーウーマンでもなく、むしろ健康問題、経済問題、家族関係で参っているというところもリアルだ。とくにジウンの子宮筋腫をめぐるくだりについては、中年女性の婦人科系のトラブルを日常生活の一部でありつつ深刻さもあることとして描写した映画はあまり多くはないと思う。そういう点でも画期的だ。