映画愛溢れる作品~『小説家の映画』(試写)

 ホン・サンス監督『小説家の映画』を試写で見た。

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 このところあまり仕事をしていない小説家のジュニ(イ・ヘヨン)が、旅先で知人の書店を訪ねるところから始まる。ジュニはひょんなことから同じくあまり最近仕事をしていないギルス(キム・ミニ)に出会う。ジュニはギルスと映画を作りたいと思うが…

 基本的には人がただ話しているだけの作品なのだが、妙に笑えたり不穏だったりするところがある。ジュニがギルスと会っていきなり映画を作りたいと言い出すところが面白く、中年女性であるジュニがギルスと出会って創作意欲を刺激され、まるで自主映画を作り始める十代の若者みたいなノリになるのが面白い。女性同士の連帯が創作につながるという点で、『オマージュ』などにもちょっと似ているかもしれない。一方でギルスにやたらとしつこく仕事をすすめる男性にジュニが怒るところなどは、男性が悪気なくやたらと女性に対して保護者ぶった発言をするという日常的によくある状況をうまく描いていると思った。

 なお、最後に2人が作った映画がちょっと出てくるのだが、ここにけっこう驚きの仕掛けがある…ものの、予告でネタバレ気味なのはあんまり良くないと思った。映画館が出てきて映画愛溢れる感じで終わるのは雰囲気が良く、『逃げた女』にもちょっと似ている。意外な偶然によって映画ができる、というのはホン・サンスの他の作品のスタイルにも通じるテーマなのかもしれない。