現代風なひねりのある正統派ロマコメ~『ザ・ロストシティ』(ネタバレあり)

 『ザ・ロストシティ』を見てきた。

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 元研究者で今は冒険ロマンスもののベストセラー作家であるロレッタ(サンドラ・ブロック)は学者だった夫ジョンをなくして以来、創作意欲が衰えてスランプ状態だった。やっと完成した新作のプロモーションのため、シリーズの表紙のモデルをつとめているアラン(チャニング・テイタム)とイベントをすることになる。ところがあまり乗り気でないロレッタはアランと言い争いをして会場を出た直後、イギリスのメディア王のドラ息子で宝探しオタクのアビゲイルダニエル・ラドクリフ)に誘拐されてしまう。アビゲイルは研究者時代の知識を題材にロマンスものを書いているロレッタの知識を使って、失われた都市Zの宝物のありかの手がかりとなる古文書を解読させるつもりだった。一方、アランは元軍人のジャック(ブラッド・ピット)を頼んでロレッタ救出に向かうが…

 キャスリーン・ターナーが冒険に巻き込まれるロマンス作家を演じた1984年の『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』のオマージュみたいな作品なのだが、現代風なひねりがいくつかある。ロマンティックコメディのクリシェをかなり研究しておそらく意図的にひっくり返しつつ、男女の丁々発止のやりとりで笑わせて綺麗にロマコメらしくオチをつけている。ロマンスものだけではなく過去のいろいろな冒険映画も取り込んでいて、けっこうメタな映画である。

 まず、相手役のアランは冒険家とかではなくモデルで、いわゆるビンボー(美人でセクシーだが無知で頼りにならない女性)をひっくり返したヒンボー(ハンサムでセクシーだが無知で頼りにならない男性)っぽいキャラクターになっている。これは今までのステレオタイプの裏返しなのだが、とはいえチャニング・テイタムが演じているような役なので、あんまりバカっぽくはない。どっちかというと『コマンドー』のシンディみたいなタイプのヒロインを裏返した感じで、そこそこ良識のある温厚な一般市民がいきなり銃撃戦に巻き込まれてオタオタするが、実は意外な才能もあり…みたいな方向性のギャップで笑わせるようになっている。才能豊かすぎる上に夫が亡くなってから偏屈になっているロレッタは、最初はアランの知性を下に見ているところがあったのだが、一緒に冒険するうちに自分の偏見に気付いてどんどん親しみを感じるようになっていく。

 サンドラ・ブロックが現在57歳、チャニング・テイタムが現在42歳ということで、ヒロインがだいぶ相手役の男性より年上で、しかも若いほうの男性は相手の女性の大人らしい知性に憧れているというのもたぶんこの手のロマンスものの裏返しだ。『マリー・ミー』でもジェニファー・ロペスが52歳なのに28歳のマルーマと結婚しようとするという展開で(ただし本命の相手役は53歳のオーウェン・ウィルソン)、おそらくハリウッドの恋愛ものではやたらと男性のほうが女性より年上だというクリシェを皮肉っていたのだが、『ザ・ロストシティ』もおそらくそのへんを意識しているのだろうと思う。ただし若い恋人から同年代の本命に移るという『マリー・ミー』とこの作品は逆で、ロレッタが最初にいい雰囲気になるジョンを演じていたブラッド・ピットは58歳で、まあ通常なら同年代の男性に惹かれますよね…というのをやった後で盛大にこちらのロマンスがポシャって若いアランが本命になる。

 もちろんツッコミどころはたくさんあり、緩いところもある作品なのだが(あんなに資料もデータベースもない環境で古文書が解読できるわけなかろう…)、かなり笑えるし、最後は宝よりも重要なことがありますよね…といういかにもヒロイン映画っぽいオチに綺麗に落としていて、楽しい作品である。『マリー・ミー』(プラス、ロマコメで冒険映画である『ジャングル・クルーズ』)に続いてこういう正統派と言っていいロマコメが復活しているのは嬉しいことだ。冒険映画といえば『アンチャーテッド』もあったし、オーソドックスなロマコメや冒険ものは復調傾向なのかもしれない。