王道をアップデートしたロマコメ、ただし不足はあり~『マリー・ミー』(ネタバレあり)

 『マリー・ミー』を見てきた。

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 大スターのキャット(ジェニファー・ロペス)は婚約者バスティアン(マルーマ)とコンサート中に結婚することになっており、"Marry Me"という歌もリリースしていたが、ステージで結婚する直前にバスティアンの浮気動画がネットに流れる。ショックを受けたキャットは突然、観客席にいたチャーリー(オーウェン・ウィルソン)を選んで求婚する。チャーリーはたまたま友人のパーカー(サラ・シルヴァーマン)に誘われて娘のルー(クロエ・コールマン)とコンサートに来ており、パーカーの"Marry Me"というサインを持っていたのでキャットの目についたのだった。衝動で行った結婚式ごっこだったはずが、キャットの意向でしばらく2人は一緒に過ごしてみることにする。だんだん親しくなっていく2人だったが…

 最近ではほとんど作られなくなってしまった華やかなロマンティックコメディで、『或る夜の出来事』(ワイルドなヒロインがふさわしくない相手と結婚しそうになるが、ひょんなことからお似合いの相手に出会う)とか、『ノッティングヒルの恋人』(一般庶民の男性が女性スターに出会う)を彷彿とさせる正統派だが、いろいろなところにアップデートがあり、白人中心的、結婚中心的、性差別的と言われるロマコメの型をあの手この手で新しくしようとしている。キャットを演じるロペスとチャーリーを演じるウィルソンは年齢もだいたい同じで離婚経験のある中年男女という役柄であり、息もぴったりだ。ヒロインであるスターのキャットはラティンクスで、婚約者のバスティアンとはスペイン語でしゃべることもあるし、キャットがチャーリーと一緒にいるとバスティアンは白人と結婚するのかと詰め寄ってくる。結婚式が失敗して衝動的に別の相手と結婚…というところから始まり、最後はまた結婚をやり直すということで、典型的な「再婚喜劇」である一方、伝統的な形の結婚をとらえなおそうとしているところもある。キャットとチャーリーが行う最初の記者会見で、チャーリーはもともと結婚というのは取引であって全然ロマンティックなもんじゃなかったのだと言い、一方でキャットは女性から求婚し、女性が名前を変えないというような結びつきだってありじゃないかというようなことを言っており、離婚経験者である2人の結婚観が似ていることが示される一方、"Marry Me"の歌詞にはおそらくバスティアンが書いたっぽい妻を自分の苗字にしたいという歌詞があり、バスティアンの結婚観はキャットとだいぶ違っていてヒロインにふさわしくない相手であるのがわかるようになっている。最後が結婚で終わるというのはまあ伝統的ではあるのだが、これまで離婚のせいで臆病になっていたチャーリーと、婚約者の浮気でショックを受けていたキャットの両方が立ち直って結ばれるまでが細やかかつ楽しく描かれている。可愛い犬も出てくるし、キャットの服はオシャレだし、ロマコメとしては大満足の作品だ。

 一方で気になったのはサラ・シルヴァーマン演じるパーカーの役柄である。パーカーはレズビアンでチャーリーの職場仲間・親友であり、キャットの大ファンで、チャーリーとキャットの恋路を全力で応援してくれる。ロマコメには昔から「ヒロインのゲイ友」というステレオタイプなキャラがいるのだが、これはたぶん私が初めて見る「ヒーローのビアン友」キャラクターである(前例があったら知りたいので教えてほしい)。「ヒロインのゲイ友」をひっくり返そうとしたのかなと思うのだが、これが完全にただ設定を逆転しただけになっており、あんまりアップデートとして効いていない。パーカーがキャットのスタッフの誰かとイイ仲になってチャーリーそっちのけで先にくっついたとかいうような展開があれば多少マシになると思うのだが、そういう展開もないので、パーカーはただただ親友チャーリーを助けてくれるだけのキャラに見える。そもそもパーカーがかなりシルヴァーマンがやりたい邦題のキャラっぽく見え、少々浮き気味な気もするので、このへんはもうちょっとキャラ設定をきちんとやってほしかった。

或る夜の出来事(字幕版)

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