ちょっとリアル風味のロマコメ~『きっと、それは愛じゃない』(試写、ネタバレあり)

 『きっと、それは愛じゃない』を試写で見た。

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 映像作家のゾーイ(リリー・ジェームズ)は、幼なじみであるパキスタン系医師のカズ(シャザト・ラティフ)がパキスタンの女性とお見合い結婚を目指しているということで、これを取材してドキュメンタリー映画を作ることにする。自分にふさわしくない相手とばかり恋愛しているゾーイに対して、カズは真面目に結婚相手を探す気満々だ。結局カズはお見合いでマイムーナ(サジャル・アリー)と結婚することになるが、どうもカズとマイムーナはしっくりこないところもあり…

 白人女性でパキスタン人の男性(首相になったイムラン・カーン)の元妻であるジェマイマ・カーンが脚本を担当し、ラホール出身のインド人監督であるシェーカル・カプールが撮った映画である。そう考えるとおそらく脚本家と監督の人生経験がかなり盛り込まれていると思われ、ロマコメにしては意外とリアルだし、なんとなくメタな視点でも見られる作品だ。ヒロインが白人の若い女性映画監督で、その監督が撮ったドキュメンタリーが白人視点だということで会社に拒否され、さらにプライバシー侵害だということでカズの家族から不興を買ってしまう…というロマコメとしてはけっこう厳しいオチになる。全体としてゾーイは善良でたぶん白人女性としては精一杯やっているのだろうし、ゾーイの映画に難色を示す会社のトップが白人男性ばかりというのはさらなる皮肉なのだが、まあたしかに今こういう観点で白人女性がこれをやるとそう言われるだろうな…という気はする。というのもゾーイはお見合いをものすごく珍しいものと考えているのだが、別に結婚相談所的なものは英語圏にもなくはないだろうし(アメリカのテレビドラマなどにたまに出てくることもある)、たぶんカズがやっているようなお見合いをそうした英語圏の結婚相談サービスと比べることで相対化する…みたいなのは可能なのだが、ゾーイにはそういう視野の広さがあまりない。そしてそういう、やる気も善意もあるのにちょっと長期的な視野がないところが、これまでゾーイが自分にふさわしくない男性とばかり付き合ってきたことに関係しているのかもしれない…などと思えるところもある。この映画はゾーイのちょっと狭かった視野にも、カズのお見合い結婚にも批判的な感じで終わっているのだが、一方でロマコメの定型には沿った終わり方になっている。

 ゾーイの母キャス(エマ・トンプソン)は、悪い人ではないのだがボロっと無自覚に人種差別的なことや不適切なことを言ったりしたりしてしまう、たぶんよくいる白人の中年女性である。こういう女性はロンドンに山ほどいると思うのだが、一方で『ラスト・クリスマス』の時もエマ・トンプソンは「ロマコメに出てくる変なお母さん」みたいな役だったので、最近ちょっとそういう役ばかりでは…と思ってしまった。なお、オリヴァー・クリスがゾーイの当て馬デート相手みたいな感じの獣医ジェームズとして出てくるのだが、クリスはとてもいい俳優なのに映画ではこういう小さくて見せ所のない役が多いのもちょっと残念である。