ロマコメに見せかけたディケンズ風ホラー~『ラスト・クリスマス』(ネタバレあり)

 ポール・フェイグ監督の新作『ラスト・クリスマス』を見てきた。エマ・トンプソンが脚本を書き、ワム!の音楽を使ったクリスマス映画である。

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 ヒロインであるケイト(エミリア・クラーク)はコヴェントガーデンのクリスマス用品店で働いているが、心臓移植手術を受けて以来人生が行き詰まり気味で、健康に気を使わなければならないにもかかわらず、酒を飲んで夜遊びして住んでいるフラットを追い出される生活を続けていた。歌手を目指しているがオーディションは失敗ばかりで、実家の母(エマ・トンプソン)ともうまくいかない。そんなケイトの前に、ある日ミステリアスでハンサムな青年トム(ヘンリー・ゴールディング)が現れるが…

 

 これ、最初の30分くらいは今時どうしたんだっていうくらいあまりにもベタなロマンティック・コメディである。しかしながら中盤くらいからどんどんホラーみたいになり、ネタバレになるが最後はなんとチャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』のバリエーションだったということがわかる話である。しょうもない女のところにクリスマスの精霊がやってきて、人生の意味を教えてくれるという話だったのだ。

 

 とりあえず、ケイトとトムが出会うくだりはまるで空から王子様が降ってくるレベルのあり得なさだ(コヴェントガーデンにいるだけであんなにいい男が降ってきてたまるもんか)。さらに、パブで会った男たちと取っ替え引っ替え寝ているケイトがトムみたいなすごいハンサムに口説かれて最初あまりなびかないのもおかしいし…のだが、どんどんトムの行動にあやしい要素が出てきて、ちょっと『シンプル・フェイバー』みたいになったかと思ったら、最後は別の映画(ネタバレになるので名前はあげない)に似たオチになり、最初ケイトが警戒していた理由もだんだん察しがついてくる。このトムを演じるヘンリー・ゴールディングが大変なはまり役で、往事のレスリー・チャンみたいにハンサムでケーリー・グラントみたいに上品でジーン・ケリーみたいに身のこなしが綺麗だ。ゴールディングは今のロマコメの帝王だと思う。

 

 脚本については、ケイトの心臓手術のトラウマとか、その時の家族とのトラブルなんかをもうちょっと細やかに書き込んだほうがいいと思うし、またいろんな様子を盛り込みすぎて二転三転しているきらいはある。このへんをちゃんとやればもっとすごく面白い映画になったと思うのだが、そうは言ってもこの手のホリデーロマコメにしてはわりとひねりがあってちゃんとしているほうだと思う。主演のゴールディングとクラーク(『ゲーム・オブ・スローンズ』ではあまり見せなかったコミカルな演技が見られる)はもちろん、周りを固めるエマ・トンプソンミシェール・ヨーも芸達者だ。最後のほうにBrexitを諷刺したかなりキツいジョークとその回収があるのはトンプソンらしいなと思う。個人的にはトンプソンとヨーがもっと絡むところが見たかった。