クリヘムがバーバレラみたいな目にあうご家族向けお色気SF…なのか?~『メン・イン・ブラック:インターナショナル』(ネタバレあり)

 『メン・イン・ブラック:インターナショナル』を見てきた。

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 ヒロインのモリー(テッサ・トンプソン)は子供の頃にMIBを目撃して以来、どうにかしてMIBに入ろうと頑張ってきた。やっと夢が叶ってMIBに入ることができ、新人のエージェントMとして活動を開始する。ロンドンでの研修期間でひょんなことから協働することになったエージェントH(クリス・へムズワース)は、世界を救った英雄という経歴にもかかわらず、イマイチ頼りない。そんな中、MIB内にスパイがいるのではないかという疑惑が浮上し…

 

 話としてはかなり緩いおバカSFで、ツッコミどころはいっぱいある。レベッカ・ファーガソン演じるリザはエージェントHを追い出すかわりに殺すべきではないかとか、いくら今までの男性中心的なアクション映画のパロディだとはいえエージェントHがイケメンバカにすぎるのではないかとか、そんなところで武器を試すなよとか、MIBはパリのエッフェル塔に大きなセンターを設置しろとか(なぜエッフェル塔にポータルがあるのにわざわざ何かあるたびにロンドンから人を送るんだ?)、伏線の回収がいい加減すぎないかとか、問題だらけである。

 

 とはいえ、全然イヤな感じはしない…というか、クリヘム演じるHとテッサ演じるMの息の合った掛け合いは笑えるし、バディぶりにぐっとくるところもあるし、見ていて楽しい作品だ。エマ・トンプソン演じるニューヨークのトップ、エージェントOもかっこよくて(黒いスーツが本当によく似合う)、宇宙の謎やMIBの仕事についてのMとの会話でベクデル・テストはパスする。最高レベルに有能な女性エージェントであるこの2人が、「メン・イン・ブラック」という組織名に難色を示す会話はなかなか面白い。あと、個人的にはリーアム・ニーソン演じる組織トップが「ハイT」と呼ばれてるところがウケた(High teaというのはイギリス英語で「夜のお茶」、つまりお茶がつく夕飯を指す言葉で、組織トップの名前にしてはなんか間抜けである)。

 

 そして、私がこの映画を気に入ったのは、たぶんノリが全体的にちょっと『唇からナイフ』とか『バーバレラ』みたいな、女性が主人公の度外れにふざけた60年代アクション映画に似てるからである(ちょっとお色気は控えめでご家族向けだが)。ものすごいイケメンで良い人なのだがなんか抜けていて、行く先々で美女の誘惑にさらされるものの、救いようもない「無垢さ」みたいなものを絶対に失わないエージェントHはまるで男版バーバレラだ。リザの住んでいる基地はそのまま『唇からナイフ』に出てきてもおかしくなさそうなノリで、リザとMのファイトは『唇からナイフ』のモデスティ・ブレーズ対フォザギル夫人にちょっと似てる(衣類が逆だが)。まあ、このへんの映画が好きな人はそう多いわけではないので、このへんに似ているからといってみんなにすすめられるわけではないが…

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 あと、私がこの映画が出来は悪いけど嫌いになれないと思ったのは、『ナイトミュージアム エジプト王の秘密』同様、すごいおバカ映画であまり出来が良いとは言えない一方、けっこう重要な倫理的・政治的メッセージをあまり説教臭くなく、楽しく伝えているように思ったからである。ここからネタバレになるのだが、なんとエージェントHが地球を救ったというのは宇宙人ハイヴにのっとられたハイTの記憶消去によるものだった。自分の活躍についてエージェントHがもやっとしか思い出せず、同じ話を繰り返し続けるのもそのせいだったのである。これは私の見立てでは、たぶんフェイクニュース(なかったことを繰り返し言い続けるうちにあったことであるかのように周りが錯覚してしまう)のメタファーだ。エージェントHはフェイクニュースのせいで嘘の英雄になったわけだが、自分が地球を救ったのは嘘だったと知った時、ちゃんと真実に向き合って自分の誠実さを証明しようとする。これは2019年のアメリカで子供たちに見せる映画としては、はっきり反フェイクニュース的、反トランプ的な倫理的教訓を含んでいるんじゃないかと思う。つまり、ハイTみたいな偉い人たちは自分に都合のいいような嘘を他人に信じさせようとするが、嘘を真実と言いくるめるのはとても悪いことであり、良き大人は分別と誠実をもってそういう悪徳に対抗しなければいけないということだ。