国産ハイブリッドは静かだけど必殺~『シンプル・フェイバー』(ネタバレあり)

 ポール・フェイグ監督の新作『シンプル・フェイバー』を見てきた。

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 寡婦で主婦ブロガーのステファニー(アナ・ケンドリック)は、同じ学校に息子を通わせていた縁でファッション会社のPR担当であるおしゃれなエミリー(ブレイク・ライヴリー)と親友になる。ある日、ステファニーはエミリーから、急な仕事が入ったので息子ニッキーを迎えに行ってもらえないかという電話を受ける。快く引き受けてニッキーを自分の息子マイルズと遊ばせていたステファニーだが、エミリーはそれっきり失踪してしまう。エミリーを心配したステファニーは自ら捜査に乗り出すが…

 

 これ、宣伝ではヒッチコック風と言われていたが、むしろ50-60年代のフランス映画、とくにスリラーを意識しているんじゃないかという感じで、作中でも『悪魔のような女』についての言及があるし、オフビートなコメディ感もちょっと『女は女である』とか『男性・女性』みたいな感じだし、全体にセルジュ・ゲンズブールなんかのフレンチポップスがガンガンかかっている。エミリーは大音量でフレンチポップスを聴くのが好きなのだが、アメリカ映画でフレンチポップスを聴く女なんていうのはふつうではないわけであって、途中からいろいろエミリーの正体がわかってくる。一方でオールアメリカンガールのステファニーは最初はエミリーにのせられてフレンチポップスを聴いているわけだが、途中から攻勢に転じるところで、車に乗ってM.O.Pのヒップホップ、"Ante Up"を聴くようになる(ステファニーはまあいろいろヤバいこともしているのだがエミリーほどファム・ファタルではないというのもあり、アメリカ映画では悪い女はフレンチポップスを、いい女はラップを聴くのである)。さらに最後にいいところを持っていくパパ友のダレン(アンドルー・レイノルズ)がエミリーを車ではねるときの決め台詞が「国産ハイブリッドは静かだけど必殺」である。この「静かだけど必殺」というのはオールアメリカンガールであるステファニーを形容するのにピッタリな言葉でもあるわけで、なかなか気が利いている。途中まではフランスのノワール風なのに最後はラップと国産ハイブリッドが支配するアメリカンコメディになってしまうあたり、いかにもアメリカ映画という感じだ。

 

 全体的にはスリラーとコメディのオフビートなバランスが面白く、着ているもののお洒落だし、主演の2人はもちろんエミリーの夫役のヘンリー・ゴールディングなどもよくハマっていて、好き嫌いはわかれそうだがとても楽しめた。ベクデル・テストはもちろんパスする。