面白いが、不足と思えるところも~『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

 マーティン・スコセッシ監督の新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』を見た。同名のノンフィクションの映画化で、史実に基づいた作品である。

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 第一次世界大戦後のオクラホマ州が舞台である。除隊して地元の大物であるおじのウィリアム(ロバート・デ・ニーロ)を頼ってオクラホマに行ったアーネスト(レオナルド・ディカプリオ)は、地元に住むオセージ族の女相続人モリー(リリー・グラッドストーン)に惚れ込んで結婚する。この地域のオセージ族は石油が出る土地を持っており、法的には無能力者扱いで後見人が必要なのだが、大金持ちであることが多く、モリーもそうした一族の娘だった。ところが、アーネストとモリーの周りで不審死が頻発するようになり、だんだん2人も巻き込まれていく。

 白人がオセージの先住民を搾取する様子を容赦なく描いた犯罪もので、重厚な人間ドラマでもあり、映画としては大変面白い。序盤はけっこうちゃんとした恋愛もので、あんまり賢くはないのだが全く使えないヤツではなく、意中の女性と気の利いた会話をするくらいの頭は回るアーネストが、糖尿病を抱えながらいつも堂々としているモリーに惹かれて求婚する。モリーは持病で苦労しているがそれに全く引け目を感じておらず、病気を隠してことさら元気に振る舞うわけでも、気に病みすぎて引っ込み思案になるでもなく、自分なりに病気と付き合おうとしていて、アーネストは「本物のレディ」だと言っているが、貴婦人のような威厳がある女性である。この、自分がきちんとあるモリーのようなタイプの大人の女性が、アーネストのようなやや頼りないが愛嬌はあるタイプの男性を可愛いと思ってコロっといってしまうあたりはけっこう説得力がある…のだが、問題はアーネストがあまり強くも賢明でもないが完全なアホというわけでもなく、頼まれたことはそこそこちゃんとやろうとするタイプだったことだ。そのせいでアーネストはどんどんおじのウィリアムの陰謀の片棒をかつがされることになり、モリーを裏切り、先住民コミュニティをボロボロにするような悪事の手伝いをするようになる。全編通してアーネストはウィリアムの言うことには全く逆らえないし、物静かだが意志は強いモリーにもあまり表だって異を唱えることはできないし、そこで齟齬が生まれるといろいろ嘘をついて取り繕おうとしており、しょうもないダメなヤツである。ディカプリオ、デ・ニーロ、グラッドストーンがいずれも大変演技が良く、見ているだけで面白いアンサンブルキャストである。

 

 全体的には白人の悪事をきちんと描いた作品だが、一方でこれはミニシリーズくらいの長さにして、もっとオセージの視点人物を増やしてやるべきボリュームの話ではないか…とも思った。何しろめちゃくちゃたくさん殺人が起こるし、背景となる法的な事情も複雑なので、もうちょっと法律や歴史的なことがらについての説明が欲しいと思うところもけっこうある(ないものねだりだが、法律家とか地元の先生みたいなキャラがさりげなく出てきて、折々で日常会話に挟みながらちょっろっと知識を出してくれる…みたいなのがほしい)。さらに、オセージの文化に最大限の敬意を払った作品ではあるのだが、基本的には白人の行動で話が進むのはちょっと白人中心的に見える。良い映画だが視点人物はほぼ白人で、しかも良い白人だった『ウインド・リバー』などよりは、先住民の視点人物としてモリーがいて、まともな白人はジェシー・プレモンス演じるホワイト捜査官くらいしか出てこない『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のほうが洗練されてるいるとは思うのだが、やはり主役3名中2名が白人で、物語のアクションはほぼ白人男性が担っているというのは物足りなく感じられる。途中で先住民の潜入捜査要員としてレン捜査官(タタンカ・ミーンズ)というのが出てくるのだが、このあたりも視点人物にすればもっといろいろ興味深いプロットが出てくるのでは…という気がする。既に映画としてはけっこう長い作品なので、もっと長くしてミニシリーズにしたほうが面白くなるのではという気がした。

 

 あと、気になったのは最後のFBI実録犯罪再現ラジオショーみたいなやつである。ジャック・ホワイトが一瞬だけ出ていたりしてビックリなのだが、これは本当にこういうのをやっていたのだろうか…とても面白かったので、このへんについてもっと知りたいと思った。