大失敗した『戦艦ポチョムキン』といった感じ~『ニューオーダー』(試写)

 ミシェル・フランコ監督『ニューオーダー』を試写で見た。

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 舞台は現在のメキシコである。良家の令嬢マリアン(ネイアン・ゴンザレス・ノルビンド)は結婚式で花嫁として幸せいっぱいだが、近くで経済格差に起因する暴動が発生する。結婚式はメチャクチャになり、暴動が拡大する。一度は逃げおおせたマリアンも誘拐されてしまう。

 予告が人種差別的だということで大炎上したそうで、そのせいでどんな映画だか見てみたいと思ったのだが、予想以上につまらなかった。予告は非白人の低所得者層がリッチな白人を襲撃し、暴力のかぎりを尽くすというもので、そこが人種差別的なステレオタイプだということで批判されたらしいのだが、全部見た後も別に印象は良くはならない…というか、リッチな白人がけっこうひたすら暴力の犠牲者でかわいそうなわりに暴動を起こすほうにヴィジョンがなく、もしこの映画が格差社会がひどい結果になるということを描きたかったのだとしたら描写の丁寧さが圧倒的に足りない。予告が人種差別的に見えるとしたら、本編は何か社会的な格差を諷刺したいらしいのだが、描き方が半端だったせいで何を言いたいのかよくわからなくなっている映画といったところである(むしろヒロインをかわいそうに描きすぎていて、「抗議活動は暴力につながるからダメだよ」的な体制プロパガンダだと思う人がいてもおかしくない)。

 全体的にひとりひとりのキャラクターが極めて薄く、いろんな人がわちゃわちゃと暴力に巻き込まれていくという点では『戦艦ポチョムキン』みたいなのだが、性格がないのにかわいそうだという描き方だけはされているので、単に描写が浅いようにしか見えない。ひたすらマリアンが虐待されたり性暴力を受けたりする様子ははっきり言ってミソジニー的で、2022年にもなって若い女性をいじめて見せ物にして尖った映画のつもりかよ…と思った。低所得者層の登場人物についても「良い低所得者」「悪い低所得者」の描き分けが鼻につく感じで、キャラクターとしては極めて平板でステレオタイプである。