ちょっといろいろ気になるところが…『エンパイア・オブ・ライト』(試写、ネタバレ注意)

 サム・メンデス監督の最新作『エンパイア・オブ・ライト』を試写で見てきた。

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 舞台は1980年代初頭のマーゲイト(海辺のリゾート地)である。地元の映画館でマネージャーをしているヒラリー(オリヴィア・コールマン)は、ボスである既婚者のエリス(コリン・ファース)から極めて身勝手な性関係を要求されていた。そんなヒラリーは新しく映画館に入ってきた黒人青年スティーヴン(マイケル・ウォード)と親しくなり、やがて恋愛関係になる。ところがヒラリーのメンタルヘルスの問題やイギリスで増加する人種暴動などの影響もあり、2人の関係はなかなかうまく進まない。

 全体的に演技は大変素晴らしく、コールマンは相変わらず名演だし、若手のウォードや映写技師役のトビー・ジョーンズ、イヤな奴を楽しそうに演じているファースなども良い。作中で大きな役割を果たしているのはピーター・セラーズ主演の『チャンス』なのだが、『年上の女』(1959)とか『蜜の味』(1961)みたいな「怒れる若者たち」映画っぽいところもある。映画館文化に対するノスタルジアについてもわかるところはある。

 とはいえ、けっこう脚本にはいろいろ問題があると思う。まず、ヒラリーとスティーヴンの年の差がたぶん20歳くらいあり、スティーヴンは大学進学を目指していて、まだ学生の年である。正直、人種差別などが横行していてマイノリティは慎重に振る舞わざるを得ない時代に、若くて爽やかで感じのいい黒人男性が20歳年上の白人女性ボスにこんなにぐいぐい行くかな…と思ってしまった。なんだかヒラリーくらいの年の中年女性の願望そのまんまみたいな感じで、ちょっとご都合主義がすぎると思った。また、いきなり中年白人女性の人生に現れるスティーヴンがマジカルニグロっぽい描き方に見えかねないところもあんまり良くない(一応ちゃんとスティーヴンにもストーリーラインがあるのでそのへんは和らげられてはいるが)。

 また、人種差別の他にメンタルヘルスの問題まで盛り込まれているせいで焦点がはっきりしない。人種差別を描きたいならスティーヴンを主人公にしたほうがいいのだが、中盤以降はかなりヒラリーのメンタルヘルスの話になる。けっこうごちゃごちゃいろんな要素が詰め込まれており、整理されていない印象を受ける。