公正な裁判とは?~『眠りの地』(配信)

 配信で『眠りの地』を見た。実際にあった訴訟をもとにした映画である。

眠りの地

眠りの地

  • トミー・リー・ジョーンズ
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 ミシシッピで葬儀屋を営むジェレマイア・オキーフトミー・リー・ジョーンズ)は資金繰りに困って大手の葬儀会社であるローウェン社に事業の一部を売却しようとする。ところがローウェン社が約束を守らなかったため、家業を守るため訴訟に打って出る。若手の弁護士ハル(ママドゥ・アチェイ)のすすめでカリスマ性のある弁護士ウィリー(ジェイミー・フォックス)を雇ってローウェンに立ち向かうことにする。

 大企業が地元密着型の企業を策略でつぶして寡占を目指そうとするのに訴訟で対抗するという話で、ジェレマイアもローウェン社の面々も白人なので、一見したところ全く人種問題などには関係ない…ように思えるのだが、実は人種問題がいろいろ絡んできていて、アメリカ合衆国ではいかに人種間の不平等が経済活動の前提となっているかということを描いた作品である。黒人住民が多いところで裁判が行われるので黒人のやり手弁護士を雇わないと陪審にアピールできないというところから始まり、オキーフの会社は人種差別には批判的な態度できちんと地元民にサービスしてきたのに、ローウェン社は黒人住民からふんだくるような形でサービスを売りつけてきたことがバレて、それが訴訟の賠償額に反映される。陪審制度で陪審員の心証が重要であるため、ローウェン社が小さなビジネスであるオキーフ社つぶしをしようとしたということよりも(これも充分問題だが)、これまでローウェン社が人種差別的で不公正な経済活動をしていたということじたいが裁かれるようになってしまう。おそらくこれはあんまり公正な裁判とはいえない…というか裁判で争われている内容とは直接的には関係ないことが裁かれているので(間接的にはつながっているわけだが)、法の支配という観点ではたぶんこの裁判はよろしくない。しかしながらそもそもアメリカの黒人コミュニティはこれまで「公正」な扱いを奪われてきたわけであって、それを考えるとローウェン社が「裁かれた」ことには理由がある。「公正」な裁判とはいったい何なのか、ということを考えてしまう作品だ。