警察における人種差別~サム・ワナメイカー・プレイハウス『オセロー』

 サム・ワナメイカー・プレイハウスでオラ・インス演出『オセロー』を見た。

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 舞台は現代ロンドンのスコットランド・ヤードで、完全に警察ものになっている。舞台はキプロス島ではなくロンドンのウォーターフロントだし、オセロー(Ken Nwosu)が戦っている相手はドラッグカルテルだ。奈落から突入用の装備みたいな格好でオセローたちが上がってくる場面もあり、序盤は刑事ドラマみたいな感じである。手話通訳が常に舞台上にいて、一応その場にいないことにはなっているはずなのだが、けっこう場面に組み込まれている。

 ロンドンの警察が舞台になっているせいでわりと全体的に身近な感じの話になっている。とくに序盤は『オセロー』にしていはかなり笑うところが多い。オセローがブラバンショー(Ché Walker)たちにデズデモーナ(Poppy Gilbert)との結婚のいきさつを説明し、なんとか事態が片付くところでは、それまでいかにも堂々と論理的だったオセローが他の人々が退場した瞬間、緊張が完全にほどけて周りのみんなに感謝し、(そこにいないことになっている)手話通訳にまでねぎらいの動作をするので、そのギャップが非常に笑える。

 それがどんどんまずい方向に転んでいくのだが、このあたりも大がかりな悪巧みというよりは職場で上司に嫉妬したイヤなやつのちょっとした計略みたいな感じで、わりと身近なスケールで話が展開する。イアーゴー(Ralph Davis)は男社会で出世欲が人種差別と結びついてボスを陥れようとする器の小さい男という感じで、あまりスゴい悪党という感じではない。そういうわりと卑近な環境で展開していた話なのだが、最後はちょっと通常の『オセロー』と違って、オセローが死なずに逮捕され、‘Black beast'などと悪し様に罵られて終わる。これはロンドンの警察のようなところでいかに人種差別が根強いかということを批判する終わり方なのだが、ちょっとすっきりしなくて掘り下げ不足な感じはする。面白いプロダクションだが、いくつか改善点はあるかなという感じだ。