アンドルー・スコットの演技力を見せるひとり芝居~ナショナル・シアター・ライブ『ワーニャ』

 ナショナル・シアター・ライブの『ワーニャ』を見てきた。チェーホフの『ワーニャおじさん』のサイモン・スティーヴンズによる翻案である。サム・イェーツ演出で、アンドルー・スコットによるひとり芝居である。

 

www.youtube.com

 名前などは全部英語風に変わっており、スコットが全てのキャラクターを演じる。舞台も今のイギリスみたいな感じで、原作で教授であるアレクサンドルは映画監督になっており、非常に現代的な翻案である。左側にキッチンがある生活感あふれるセットで、真ん中のドアがけっこう大きな機能を果たしており、スコットがドアから出たり入ったりすることで違う登場人物になるところがある。

 とにかくスコットの演技を見る作品だ。最初にスコットが電灯をつけたり消したりするところだけでなんか笑えるし、次々といろんな人物になるスコットにお客さんも付き合って感情のジェットコースターに乗せられるみたいな感じになる。かなり笑えるところが多いのだが、スコットが泣くところなどはクロースアップで表情が強調されており、カメラワークでこれでもかというほどスコットの演技力を見せている。

 一方で、ひとり芝居にするためかなりお話が刈り込まれているので、わりと恋愛のいざこざを中心にしたダークコメディという感じで、『ワーニャおじさん』にしては軽めの作りになっているような気もする。通常フルでやるよりもワーニャの存在感が薄く、スコットが次々と変わる登場人物の群像劇になっていると思う。そういう面も含めて、当代屈指のひとり芝居の達人であるスコットの演技力に頼った実験的な作品という感じで、たぶん他の役者でこれをやってもそんなに面白くならないのでは…という若干の不安もある。