報道の良心~『新聞記者』

 『新聞記者』を見てきた。

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 内閣情報調査室につとめる杉村(松坂桃李)は、政権のスキャンダルをもみ消すため日々情報操作をする仕事にうんざりし始めていた。一方、アメリカ帰りの新聞記者、吉岡(シム・ウンギョン)は、勤め先に送られてきた大学設置認可についての書類について調べ始める。ひょんなことからこの2人の運命が交錯し、政権を揺るがし得るスキャンダルが明るみに出る可能性が出てくるが…

 

 非常に良心的で、現在の日本の腐敗した政治を痛烈に批判する作品である。大学設置認可問題やら、政権に近いジャーナリストが起こしたレイプ事件のもみ消しやら、安倍政権が引き起こしたのにきちんと裁かれていないスキャンダルを明らかに連想させるものが次々と出てくる。それを骨太な脚本と役者陣の達者な演技で見せる作品で、とくにいつもとひとあじ違う松坂桃李の芝居が大変よかった。これは紛れもなく現在の日本に必要とされている作品であり、日本では珍しいまともな政治批判の映画である。

 ただ、一つ思ったのは、今の日本において、最後の東都新聞みたいな決断をできるくらい、報道の良心に従って行動できる機関があるのだろうか、ということだ。結局、内閣の圧力に屈してしまうところが多いのじゃないだろうか…たぶんこの映画を称えているだけではだめで、報道各社にはこの映画に出てくる東都新聞を見習ってもらわなければならないのだろう。そして市民はそうした行動をとる新聞社をサポートするべきだ。この映画が言いたいことはそういうことだろう。

 

 一方で、この映画はアメリカなどの政治映画に比べると見劣りするところもある。大量の台詞を見事に処理した『大統領の陰謀』、実名で堂々と政治批判をやっている『バイス』、報道の自由のみならずビジネスにおける男女差別にも切り込んでいる『ペンタゴン・ペーパーズ』なんかに比べると練り方が足りなくて、ツッコミたいところがいくつかある。気になったところとしては、まず内調のインテリアがあまりにもわざとらしくカフカ的でちょっとやりすぎだ。また、杉原が産まれたばかりの赤ん坊を見る場面があるのだが、これが出てくるのが遅すぎる(出産直後に挿入すべき場面だろう)。また、吉岡のツイッターのリプで、容姿と育ちを攻撃するものが少なすぎると思う(韓国系でアメリカ育ちの女性なら絶対に人種差別・容姿差別のリプがたくさんつくはずだ)。なお、ベクデル・テストはパスしない(女性同士が話す場面はあるが、全部男性についての会話だ)。

 

 また、個人的には途中のお通夜の場面にリアリティがないように思えたのだが、これは監督とか脚本家の育った地域ではああいうお通夜をするのかもしれないので、ちょっとよくわからない。般若心経を読んでいたので禅宗の通夜だと思うのだが、内地ではああいうお通夜がふつうなのだろうか…?私は北海道の禅寺で育ったのだが、お通夜はあんなお寺の本堂の玄関みたいなところにお焼香を設置するものではなく、畳の部屋でもう少したくさんの人が出席して行うものだった。