ダメ女の人生が音楽の力で変わるまで~『フローラとマックス』(配信)

 ジョン・カーニー監督の新作『フローラとマックス』を見た。Apple TV+で配信されている。

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 若いシングルマザーのフローラ(イヴ・ヒューソン、ボノの娘)は息子マックス(オーレン・キンラン)が非行に走り気味だがあまりうまく対応できず、行き詰まった日々を送っていた。息子に何か趣味があったほうがいいと思い、フローラはゴミ捨て場で拾ったギターをマックスに与えるが、マックスはヒップホップが好きであまりギター演奏に興味を示さない。かつてバンドマンと付き合っていたこともあるフローラは、ロサンゼルスに住むオンラインギター講師のジェフ(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)から、自分がギターを習うことにする。

 完全に人生が行き詰まり気味の母子が音楽を通してちゃんとお互いを理解しあえるようになり、人生が上向きになる様子を描いたポジティブな作品である。新型コロナ以降のオンライン教室の増加など、世相も取り入れているのだが、一方でリモートで作業しているはずのフローラとジェフがアイルランドで一緒にいるという幻想的…というか2人の息がぴったりあっていることを象徴的に示すような場面も入れていて、このへんの映像の使い方も面白い。ジョン・カーニーらしく音楽の使い方はとてもちゃんとしている。

 とにかくフローラが最初大変ダメ女なのがよい。熱中できる楽しいこともなく、あまり息子のことも理解できていないのだが、たぶんあまりにも若い頃に子どもを生んだせいで、育児や家のやりくりに追いまくられ、若者らしい経験を通して成長する余裕が全然なかったからだと思われる。そういう未成熟さのせいで序盤ではジェフに対してとんでもなく失礼なセクハラをかましたりするのだが、音楽を一生懸命やることを通してフローラはぐんぐん成長し、思いやりをもって他人に接することができる大人になっていく。息子マックスと理解しあえるようになるプロセスもいいし、オンライン講師のジェフもフローラとの接触によって一皮むける。人を成長させ、結びつける音楽の力を描いたとても温かい作品だ。