アメリカの運の悪い息子たち〜『ローガン・ラッキー』(ネタバレあり)

 スティーヴン・ソダーバーグ監督の新作『ローガン・ラッキー』を見てきた。
 
 ウェストヴァージニア州ノースカロライナ州の州境あたりを舞台にした犯罪ものである。主人公であるジミー・ローガン(チャニング・テイタム)は足が悪くてアメフト選手の道を断念し、妻とは離婚して娘とも離れて暮らしており、さらに仕事もクビになった。弟のクライド(アダム・ドライヴァー)はイラク戦争で片腕を失い、今はバーデンの仕事をしている。人生に行き詰まった2人は、車に詳しい妹のメリー(ライリー・キーオ)と金庫破りの名人ジョー・バング(ダニエル・クレイグ)を仲間に、シャーロット・モーター・スピードウェイの金庫から大金を盗み出す一攫千金計画を実行しようとするが…

 『オーシャンズ11』シリーズに似た犯罪コメディなのだが、ふつうならサスペンスにするところを一切盛り上げない客観的な撮り方が特徴だ。返したお金が発見されるくだりとか、レーサーのデイトン(セバスチャン・スタン)とマックス(セス・マクファーレン)のもめごとがおおっぴらになるくだりとか、普通ならもうちょっと盛り上げそうなところを非常に冷静なトーンで撮っている。一応ジミーが主人公なのだが、この手の映画だとジミーのナレーションを入れたりして内心に入っていく語りをやりたくなりそうなのに、そういうことは一切せず、動機などについてもさらっと流すだけにしている。

 全体的に会話はけっこうオフビートな感じで面白かった。ジミーの元妻ボビー・ジョー(ケイティ・ホームズ)の現夫ムーディが、ジミーよりもミドルクラスっぽい家に住んでいるのに子どもに『ワイルド・スピード』シリーズを見せようとしていてジミーが教育上良くないのではと狼狽する場面とか、ムーディが女だから車に詳しく無いだろうとメリーの前でかっこつけたらメリーがそれこそ『ワイルド・スピード』に出てくる女性たちなみに車に詳しかったりする場面とか、笑える会話もけっこうある。ベクデル・テストはメリーとジミーの娘セイディの髪型に関する会話でパスする。刑務所暴動の場面で囚人たちが図書室にジョージ・R・R・マーティンの本を全部入れろと要求するところはまるっきりコメディだったが、ただちょっとここはわざとらしかったかなという印象もある。

 非常に特徴的なのが音楽の使い方だ。リアン・ライムス本人がカメオ出演して歌っている他、ドワイト・ヨーカムがちょっとだけ出てる(残念なことに歌わない)。ジョン・デンヴァーなどの歌がふんだんに使われている。デンヴァーの"Take Me Home, Country Roads"がジミーのお気に入りの地元ソングとして効果的に使われており、セイディが子どものミスコンでこれを歌うところでは会場の全員が唱和する。終盤のジョーが地面を掘る場面でクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルの"Fortunate Son"が使われているのだが、これはヴェトナム戦争の際に貧しい家の青年たち、つまり"Fortunate Son"(幸運な息子)ではない者たちが徴兵されることを皮肉った歌だ。ローガン一家はunlucky、つまり不幸な一家として地元でよく知られているのだが、"Fortunate Son"がかかるところは貧しい不幸な息子たちにもとうとう運がめぐってきたということをちょっと皮肉に表現していると思う。
 このへんの選曲センスはアメリカーナ(この言葉じたいは1990年代にできたので、デンヴァーCCRはプレアメリカーナと言うべきなのだろうが)とかルーツ・ロックとか言われるもので、アメリカののどかな田舎とそこに住む善良な人々を想起させる一方で、それにしばしば付随してくるネガティヴなイメージ(人種差別とか性差別とか)からはある程度切り離された曲を意識的に選んでると思う。『キングスマン』ではいかにも南部の田舎バンドで人種差別主義者御用達というイメージもあるレーナード・スキナードの"Free Bird"を使ってこれとはまったく逆の「アメリカの田舎の連中って大バカだよな!!」みたいな(イギリス人視点の)物凄く悪意に満ちた表現をしていたのだが、そういうのとは逆方向の効果を出そうとする選曲だ。ちなみに『キングスマン:ゴールデンサークル』には"Take Me Home, Country Roads"が使われててチャニング・テイタムも出てるらしいので、この曲がどう使われてるのかとても興味がある。