願望とダンス~『マジック・マイク ラストダンス』

 『マジック・マイク ラストダンス』を見てきた。チャニング・テイタムが作っている『マジック・マイク』シリーズの最新作で、おそらく最終作である。スティーヴン・ソダーバーグが監督をつとめている。

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 新型コロナのせいで家具ビジネスが続けられなくなり、バーテンなどをして暮らしているマイク(チャニング・テイタム)は、雇われバーテンとして働いたパーティで不幸な人妻マックス(サルマ・ハエックピノー)に踊ってくれないかと言われる。マイクはそのままマックスと関係を持ち、ダンスに感動したマックスにスカウトされてロンドンに連れて行かれる。マックスがなかなか離婚できない夫からぶんどったロンドンの劇場でショーの振付をまかされたマイクは、何が何だかわからないまま、久しぶりにクリエイティヴなやる気を刺激されてショーに取り組む。

 アメリカやイギリスで実際に上演された『マジック・マイク・ライヴ』を作る様子をベースにしていると思われるが、ロマンスなどのお話はもちろんフィクションである。最後の30分くらいはショーの様子を描いているのだが、けっこう実際のショーに忠実だ(「ユニコーン」は実際のショーではストップワードとしても使われていた)。既に40歳を過ぎているテイタムが全て自分で踊っているそうで、ダンスの迫力は折り紙付きである。なお、この映画ではウェストエンドの劇場はとても保守的なところとして描かれているが、新型コロナ前からウェストエンドではふつうにバーレスクとかをやっていたので、この程度でそんなに問題は起こらない気もするし、あんなにウケが良かったらラティガン一家のほうも強硬手段はとれなくなりそうなので、この映画が終わった後にマックスが破産することはないのではないか…と思う。

 全体のお話としては、不幸なマックスがかなり年下のマイクと恋に落ちるものの、お互いいろいろあってなかなかうまくいかない…というような展開である。基本的にこのシリーズはマイクを始めとするセクシーな男たちがいろいろな女性の願いを叶えるというようなことが基本コンセプトなので、中年女性(とはいえすごくセクシーなサルマ・ハエックなわけだが)がセクシーな年下のマイクと恋に落ちるという、中年女性の願望を臆面も無く反映した展開になっている(チャニング・テイタムは『ザ・ロストシティ』でも同じことをしていたので、意識的にそういう役をやってジェンダーロールを反転させようとしているのだと思う)。途中で『プリティ・ウーマン』のパロディみたいなところもあり、恋愛プロットはちょっとひねった形でパロディ化されたロマコメという感じだ。

 ただ、『マジック・マイク』は基本的にはお仕事映画でダンス映画だと思うので、面白いのはダンスや舞台作りのプロセスだ。序盤で、マイクがダンスの前にマックスの家の建て付けをチェックして褒めており、やっぱり家具職人だから…と思ったらダンスの時に柱を振付に利用していて、おお、そこはプロのこだわりだったのか…と思うところがあるが、こういう描写がこのシリーズの醍醐味だと思う。劇場でマイクとマックスがクリエイティヴなことで衝突するところはかなり面白く、マイクがあまり「ディレクター」ぶらず、マックスや主演女優の意見を聞いてステージを作るところは良い。ただ、そのわりにそれぞれのダンサーの個性があんまり強調できていないのと、これまでアメリカでは活躍していた前作のダンサーたちがカメオ出演しかしていないのは寂しいところだ。正直なところ、恋愛プロットはカットして、感動したマックスがマイクをスカウトし、2人で一生懸命舞台を作る、みたいなプロットのほうが、いろいろなダンサーに焦点を当てられてお仕事ダンス映画としてはすっきりしたかもしれないと思う。