映画館での体験を考えるヒントになる作品だが、途中で出てくる舞台の話が疑問~『映画を愛する君へ』(試写)

 アルノー・デプレシャン監督の『映画を愛する君へ』を試写で見た。

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 自伝に近いような作品で、デプレシャンの他の作品にも出てくる自分の分身的なキャラクターであるポール(というかほぼ監督自身)が子どもの時からどういう映画に触れてきたか、映画館でどういう経験をしたかといったことを映画史を交えて語るエッセイ的な作品である。それに他の映画ファンへのインタビューとか、映画批評や理論の分析なんかも盛り込まれている。ショシャナ・フェルマンもインタビューで登場している。

 けっこうガチで映画批評や理論が出てきており、スタンリー・カヴェルが引用されていたりするあたりはこの種のノスタルジックな映画に関する映画としては珍しいと思う。映画が好き、映画館が好きという人たちの経験をシェアするという点で、いろんな人たちに映画に関するインタビューをしているのも面白い。そしてたぶんこういう映画が作られるようになったのは、だんだん映画館が配信などに押されていて、映画館ではどういう経験が得られるのかということを真面目に考えなければいけない時期が来ているからだと思うので、この作品は単にノスタルジックで個人的な映画だというわけではない。だからこそ映画に関する理論が映画館の意味を考える上でけっこう大事になってくる。

 一方で、非常に細かいことで恐縮なのだが、途中の舞台と映画を比較する話はかなり疑問である。大学の先生が、20人の役者がシェイクスピアの『冬物語』を上演するとしてお客さんが2人しかいなかったら公演が中止されるだろう…みたいな話をしているのだが、これまでの私の経験からするとそういう場合でも中止されないと思う(フランスではそういう場合は中止がふつうなのか?)。あと、たぶん役者が20人いる規模のカンパニーで『冬物語』を上演するのにお客さんが2人というのは吹雪とか台風でそもそも物理的に来場が難しいみたいな状況以外はけっこう考えにくい。なぜならその20人(+スタッフ)の知り合いが見に来るからである(『冬物語』は前半しか出ない役と後半しか出ない役があり、1人で何役かやれば20人もキャストは要らないので、もっと小さいカンパニーだとお客が2人ということもあるかもしれないが)。