リアルな一方、イギリス的イヤミも感じる~『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(ネタバレあり)

 アレックス・ガーランド監督の新作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を見てきた。

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  近未来の全体主義的なアメリカが舞台である。3期目をつとめている大統領の政府に対していろいろな地域の党派が武力で刃向かっており、全米が内戦に巻き込まれている。戦争写真家のリー(カーステン・ダンスト)はジャーナリスト仲間のジョエル(ヴァグネル・モウラ)、師匠格のサミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)、リーに憧れてグループに加わった若い写真家ジェシーケイリー・スピーニー)とともにワシントンDCを目指す。

 現代のアメリカの分断が進んだらそのままこうなる…みたいな内戦を描いたえらくリアルな作品である。リアルな内戦の映画というと舞台はバルカン半島だったりアフリカだったりしてアメリカ人には全くの他人事なんだろう…と思うのだが、それをアメリカに持ってきて描いているというところがポイントだ。何しろ作っているのがイギリス人なので、みんなが銃を持っていてしかもドナルド・トランプなんかを大統領に選んでいればそうなるでしょ…みたいなものすごいイヤミがこもった作品でもあると思う。途中でジェシー・プレモンス演じる人種差別的な武器を持ったやばい人が出てくるところなどは非常に怖いのだが、いかにもイギリス人が考えるアメリカという感じもする。

 一方でジャーナリストが主人公になっているせいでちょっとテーマがぼけている感じもする…というか、ジャーナリズムの世界で師匠格の人が弟子を守って死んでいき、弟子は死人にカメラを向けるジャーナリストになる…みたいな展開があるのだが、こういうディストピアSF的な設定でジャーナリズムの重要性と無情さみたいなテーマを盛り込む必要があるのかな…と思った。内戦だけに絞ったほうがテーマがぼけなくてよいような気がする。また、これはガーランドの前作『MEN 同じ顔の男たち』や『エクス・マキナ』でも思ったのだが、非白人が人種差別を描くためだけに出てくる、みたいなのはちょっとなんとかしたほうがいいように思う。