図書館の公共性~『パブリック 図書館の奇跡』(ネタバレあり)

 『パブリック 図書館の奇跡 』を見てきた。エミリオ・エステベスが監督・脚本・製作・主演の作品である。

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 舞台はシンシナティ公共図書館である。司書のグッドソン(エミリオ・エステベス)は以前、体臭のせいでホームレスの利用者を図書館から退出させたせいで図書館が訴えられてしまい、市長の座を狙っている検察官デイヴィス(クリスチャン・スレイター)が突き上げにやってきて憂鬱だ。シンシナティは寒波に襲われてホームレスの凍死が発生しており、ある厳寒の夜、ホームレスの利用者たちが図書館の3階を占拠して緊急シェルターとすることを要求する。成り行きでグッドソンはこの占拠のリーダーのひとりとなるが…

 

 実話ではないらしいのだが、いかにもありそうな話を扱っている。ホームレスの図書館利用者についてはアメリカでも日本でもたびたび取り上げられており、全ての市民にサービスを行うという図書館の理念と、臭いや長時間にわたる席の利用などに対する他利用者の苦情が衝突することがあるのはよく知られているが、この映画はそれをとっかかりにしている。一方、この映画ではアメリカ特有の問題として人種差別や退役兵への支援不足なども絡んでくる。アメリカの図書館が公共性と民主主義の砦として重視されているのは『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』みたいな真面目なドキュメンタリー映画から『ジョン・ウィック:パラベラム』のようなファンタジーっぽい娯楽的なフィクションまでさまざまな映画で描かれているところで、この作品は真面目な主題をわりと娯楽的にまとめ、図書館が皆に開かれていることの重要性を訴えるものである。脚本はわりとしっかりしており、主人公のピザに関するこだわりが中盤で効いてきたり、最初のほうで図書館でたまに起こるトラブルとして描かれていた出来事が最後の伏線になるなど、なかなか考えられている。

 ただ、出てくる女性キャラクターがそろいもそろってみんな薄いのはあまり良くないところだ。グッドソンの同僚のマイラ(ジェナ・マローン)は、普段は意識高い系発言をしているのに占拠となるとびびってしまう口だけの女性みたいに描かれている。まだやっと付き合い始めたばかりなのに、グッドソンのガールフレンドのアンジェラ(テイラー・シリング)がやたらと占拠中のグッドソンを助けようとするのもちょっと都合が良いように思う。レポーターのレベッカ(ガブリエル・ユニオン)はニュースを歪曲する鈍いジャーナリストで、全く役に立たない。あと、ラストは占拠メンバーにホームレスの女性がいないことが前提になっているのだが、序盤に出てきていたホームレス女性はどうなってしまったんだろう…