みんなのニューヨーク公共図書館~『ジョン・ウィック:パラベラム』(ネタバレあり)

 『ジョン・ウィック:パラベラム』を見た。

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 前作終了直後から始まる作品で、さらにちゃんと終わってない…というか、明らかに4作目がないとオチがつかないだろうというところで終わる。前作の最後で、全殺し屋コミュニティから狙われることになったジョン・ウィック(キアヌ・リーヴズ)が、自分と愛犬の安全のため体力と知恵の限りを尽くして戦う様子を描いた作品である。

 

 ずーっと殺し屋同士が戦っているだけの話ではあるのだが、場所や見せ方を変えているためあまり単調にはならず、ヴィジュアル的な工夫がある。とりあえず全世界から狙われているため、最初はジョン・ウィックがひたすらニューヨークでどんどん襲ってくる相手から逃げたり戦ったりする様子を描くのだが、そろそろ飽きてくるか…と思ったところでジョン・ウィックがモロッコに逃亡し、カサブランカのコンチネンタルホテルで支配人をやっている昔の殺し屋仲間ソフィア(ハリ・ベリー)に助けを求める。ここではソフィアの愛犬2頭が大活躍する犬がかり…じゃなかった大がかりなアクションがあり、さらにジョン・ウィックは砂漠をさまよった後にニューヨークに帰ってきてコンチネンタルホテルで籠城戦を…という展開になる。

 

 相変わらずちょっとファンタジーっぽい世界観をしっかり作り上げていて独特の雰囲気があり、その中でいかにも孤独そうなジョン・ウィックの表情と凄まじい殺し屋ぶりのギャップが引き立つ作品である。脇役陣も豪華で、前作から出てくるローレンス・フィッシュバーンのようなおなじみのキャラから新キャラまで、みんな楽しそうだ。とりあえずこの作品では犬をいじめる奴は巨悪だということに決まっており、犬好き殺し屋として初登場するソフィアはかなり良いキャラだ(残念ながらベクデル・テストはパスしないが)。

 

 ファンタジーっぽいのにニューヨークの実際にある建物を活用しているところも面白く、ニューヨーク公共図書館が序盤で大きく取り上げられている。ニューヨーク公共図書館の本館は街のランドマークとして市民に親しまれている場所なのだが、全ての市民に行き届いたサービスを行うことを目標としている。びしょ濡れになったジョン・ウィックが入って来ても文句ひとつ言わず、リーディングルームカウンターで利用者サービスを提供してくれるあたりはさすがである(私もあの閲覧室に1回だけ行ったことある)。しかしながら殺し屋コミュニティのほうはあんまり図書館を尊重しておらず、図書館内でジョン・ウィックに襲いかかる不届き者がいるあたりは全く見ていて憤懣やるかたないところだ(???)。というのは冗談としても、こういうところでお話を現実のニューヨークとしっかりつなげるあたりの演出は面白い。たぶんニューヨーク市民にとってはご当地映画として大変楽しいところなのだろうと思う。

 

 外国語指導がいい加減すぎるなどいくつかの欠点はあるものの(これは1作目のロシア語からそうだったらしいのだが、今作の日本語の台詞もけっこうひどい)、作品じたいは面白かったのだが、日本語字幕でちょっと問題があると思えるところがあった。主席連合から派遣された裁定人という役柄が今作では大きな役割を果たす。この裁定人、見たところ女性なのだがかなり中性的な服装で、あらたまった感じの硬い英語を話す。それなのになぜか日本語字幕が女言葉になっており、聞いた感じと字幕のイメージの乖離が甚だしい。調べてみたところ、そもそも裁定人を演じているエイジア・ケイト・ディロンはノンバイナリの役者で、この裁定人の役柄についてもノンバイナリという設定らしい。こういう設定がわかっていればもちろん女言葉にはしないと思うのだが、別に字幕作成段階でそういう話を聞いていなくても、これだけ「当局から来ました」風のキャラクターなのに、柔らかく聞こえがちな女言葉で字幕を作るのはキャラ設定上不適切だと思わなかったのだろうか…