猫演出に注目~グラインドボーン『ファルスタッフ』(配信)

 グラインドボーンの配信で『ファルスタッフ』を見た。リチャード・ジョーンズ演出、ウラディーミル・ユロフスキ指揮のプロダクションである。

 

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 1940年代の第二次世界大戦直後くらいのウィンザーが舞台という設定で、かなり作り込んだセットが特徴である。おそらく庭園だったと思われるところが戦時中の食糧難でキャベツ畑になっている家とか、モックチューダー様式のリバティみたいな店が建ち並ぶ街角とか、あまり豊かで無い時代のイギリスだとはいえとても豪華で視覚的効果の高い舞台だ。最後の場面の仮装も吸血鬼など、昔のホラー映画などにありそうな感じのちょっと懐かしい雰囲気の扮装がたくさん登場する。最後の乾杯のところでは指揮者も乾杯に付き合うなどという面白おかしい演出がある。

 クィックリー夫人(マリ=ニコル・ルミュウ)がやたらかっちりした衣服を着ていてこれは何なんだろうと思ったら、補助地方義勇軍の兵士という設定だそうで、しっかりして地元に顔が利きそうなキャラになっている。フェントン(バレント・ベズダズ)もアメリカ兵という設定で、そのせいであまり恋人の親たちに気に入られていないようだ。ファルスタッフ(クリストファー・パーヴス)も戦後ということでわりと地味なスーツ姿なのだが、川にぶち込まれた後の表情などは本当に惨めそうでけっこうかわいそうだった。

  小さい工夫だが、このプロダクションで大注目なのは猫である。茶色っぽいパペットの猫が出てくるのだが、だいたいは眠っていて最初はぬいぐるみみたいであるものの、人間に反応して動く様子が大変かわいらしい。序盤でファルスタッフが猫をもふるところなど、猫の表情がなかなかリアルだ。この猫が終盤、あまり活躍がないのは残念である。